Midtown West ミッドタウン・ウェスト(ヘルズキッチン ~ ハドソンヤーズ)
左:30 Hudson Yards. 上に超高層階の展望台 The Edge が見える
右:Whole Foods Market が入居する 5 Manhattan West
ハドソンヤーズはチェルシーの北、Penn Station の西、ヘルズキッチンの南に位置し、大手上場会社や弁護士事務所などが多数入居するオフィスビル、超高級コンドミニアム、レストラン、グローバルブランドの店舗(ハイブランドからファーストファッションまで)からなる新興開発地区です。$25 billion(約2兆7千億円)が投じられた、ロックフェラーセンター以来の大規模開発プロジェクトで、2019年頃に主要なビルディング複数がオープンしました。別のディベロッパーが建てた賃貸専用ビルも周辺にいくつかできています。
商業施設と住宅が隣接
30 Hudson Yards の7フロアを The Shops と呼ばれるショッピングモールが占め、多数の小売店、カフェ、レストランが店を構えています。高さ 345m にある展望台 The Edge や、隣接するハチの巣状の大型構造物 The Vessel が良く知られています。意外なお店では、Lower East Side発祥でサーモン・ベーグルで有名な Russ and Daughters が34丁目に新店舗を構えました。
2020年7月には商業ビル 5 Manhattan West で Whole Foods Market が営業を開始。この建物は新築のように見えますが 1969年築で、薄茶色いコンクリート壁をガラス壁に変えたり内部を大幅にリノベートしたものです。Amazon や JP Morgan Chaseのオフィスが入居しています。
このような成り立ちのため、ハドソンヤーズは職住近接を具現した、通勤・買い物・外食のどれもが便利なエリアとなりました。Whole Foods Marketには食べ物のテイクアウトのコーナーもあります。このエリアの築浅賃貸ビルには、2-Bed以上よりStudioと1-Bedのユニットの割合が他の一般的賃貸ビルよりかなり高いものがあり、仕事での派遣も含めて、小世帯の需要が高いと想定しているようです。もちろんこれは一つの例であり、全てを代表するものではありません。高級コンドミニアム(分譲住宅)も建てられました。
新築オフィスビル
パンデミック以降、出社率が減った企業が自身のオフィススペースを見直し、古くて(今となっては)使い勝手が良くないレイアウトのオフィスが真っ先に空き始めました。反対に、モダンなスペースを設計した、新築で、社員の厚生にも使えるカフェやジムやヨガスタジオが入居するオフィスビルの人気は高まりました。人気が高まったエリアの代表的なものの一つがハドソンヤーズです。
ニューヨークのオフィスビルの人気の変化と企業の移転 ~ ミッドタウンの空洞化は住宅人気に波及か (2023年3月の記事)
下は The Spiral と呼ばれる34丁目のオフィスビル。ミッドタウンイーストからファイザーの本社が移転しました。
遊歩道的な公園、ハイライン(The High Line) からは、付近の高層ビル群や対岸のニュージャージーの景色が広がります。
地下鉄の最寄り駅は、7ラインが延伸してできた 34th St-Hudson Yards 駅です。
Hell's Kitchenの大部分の眺め。高級住宅はこのエリアの北(奥)、西(左)、南に多い
ヘルズキッチンは、クリントンやミッドタウンウェストとも言われ、8th Ave の西側全域、北は59丁目、南は34丁目までのエリアです。ただし、42丁目から南は現在ではハドソンヤーズとして区分されることが多いので、ここではハドソンヤーズ以外のヘルズキッチンをご紹介します。
52丁目から59丁目の住宅
52丁目辺りから北に進むにつれ、高級住宅が少しずつ多くなります。57丁目は「ビリオネアーズロー」と言われ、超高級コンドミニアムがいくつも存在します。
コロンバスサークル(59丁目 & 8th Ave)の南は、随分前に建てられたコンドミニアムやコープが多く、賃貸アパートはさほど多くありません。こういった需給のアンバランスのため、新しめの賃貸ビルでは空室があまり出ず、出てもすぐに借り手が付くことが多いようです。
ハドソン川に近い10th-11th Aveの北寄りに大型賃貸住宅がいくつも建設され、一部は室内洗濯機付きです。リンカーンスクエア(アッパーウェーストサイドの南部)の賃貸住宅と比較検討される方も多いようです。
42丁目付近の住宅
42丁目沿いの 10th-11th Ave 周辺に、大型賃貸物件やコンドミニアムが並びます。西側では建物群が45丁目辺りまで伸びています。室内洗濯機付きで新しめの高級賃貸住宅が多いことから、立地より建物の中身を重視する傾向のある日本人に向けて、日系不動産会社が駐在員に強く勧めがちなエリアです。ブローカーの仲介料をお客様に代わって負担する高級物件があり、それらは弊社ならお客様から仲介料を頂かずに仲介します。 (そういった物件を契約しても仲介料が無料にならないのは、お使いになった不動産会社が仲介料を貸主とお客様から二重取りしているためですが、それをご存じない日本企業が大半です)。ヘルズキッチンの域内には地下鉄が通っておらず、最寄り駅はどのラインを選ぶにしても 8th Ave か 7th Ave 沿いとなります。それらの駅まで遠い物件が大多数なので、一部の賃貸会社はミッドタウンイーストまで東西を走るシャトルバスを運行しています。ニューヨーク市のバスも利用できます。
42丁目と 8th Ave の角には、ポートオーソリティバスターミナルと呼ばれる、ニュージャージーやニューヨークの遠方に向かう路線バスの発着所があります。その周辺は観光などの人が多く、42丁目の賃貸ビルから通勤で東に向かうには、タイムズスクエア付近まで人通りが多い中を通り抜けることになります。
中間地帯
上記の南北二つのエリアの中間には大きめの賃貸ビルが少なく、大多数は4階建てのかなり古い walk-up (階段のみ)の建物です。大通りに面した一階には小さな店舗が入っていることがよくあります。そういった中に新しい高層賃貸住宅は僅かで、あっても1980-90年代かそれより前の建物です。戦前築で低品質の建物が多数残る上、その後の開発は現在まで散発的に起こっただけで、エリアとしての発展は停滞気味です。翻って言えば、そういった低層の建物にレストランが多く、今の特徴が形作られています。
ハドソン川近くまで西に行っても、45丁目から54丁目までの間に限っては現代的な住宅がほとんどなく、変電所、自動車整備工場、運送会社の物流センター、ガスステーション、駐車場からなるインダストリアルな様相です。
スーパーマーケットについては、Whole Foods Market はヘルズキッチンの周辺部にしかなく、57丁目(コロンバスサークル)か33丁目 (ハドソンヤーズ)、またはブライアントパーク横まで行く必要があります。 (NYC主要スーパーマーケットの地図)
レストラン
9th Ave と 10th Ave 沿いには特に、小さなレストランやバーが多数あります。昔ながらのイタリア料理やワイン&チーズの店もありますが、タイ、ベトナム、メキシコ、韓国、ペルー、インド、スペインなど、エスニシティが多様です。日系では昔は居酒屋やラーメンといった低価格帯の業態の店に限られました(これは日系以外でもロックフェラーセンターの近くを除けばそうだったかもしれません)。
しかしヘルズキッチン北部では数年前から、日本から進出した比較的高価格帯のお店がいくつか営業しています。残念ながら、お寿司屋さんは良かったお店が二つほどパンデミック後になくなってしまいました。2024年夏に、50丁目にDin Tai Fung (鼎泰豊/ディンタイフォン) が開店しました。
オフィス
オフィスの動向はエリアの雰囲気や活気に影響しますので、最新の顕著な動向について説明します。ヘルズキッチン東端の5thから6th Aveには、モルガンスタンレー、バークレイズ、日系を含む大手銀行などが多く、オフィスの活気に目だった変化は見られません。
しかし Broadway 沿いの古い大型オフィスビルでは、パンデミック以降にテナントの退去や賃借スペースの縮小が起きています。中には、ブラックストーンが所有していた 1740 Broadway のように、賃料収入が不足して不動産ローンの返済ができなくなり、競売により所有者が変わった例があります。1740 Broadwayを含め、Broadway沿いの一部の商業ビルは、賃貸住宅にコンバートされたり建て替えられる計画です。
また、49-50丁目の超大型オフィスビル One Worldwide Plaza では、賃料収入の50%を占めていたテナントが2024年にハドソンヤーズの新築オフィスビルに移転したまま空いている上、テナントとして2番目に大きかった野村證券インターナショナルも縮小するか2027年の契約満了前に移転する意向と報道され、所有者は破産または債権者との交渉に迫られています。2024年10月には、所有者からの毎月の債務返済が止まっていることを受け、賃料の回収権限が所有者からスペシャルサービサーに移管されました(参考記事)。こうなった要因は、One Worldwide Plazaが1989年築の巨大オフィスビルであるため今となっては使い勝手が悪いのに加えて、建物(8 Ave & 51-52丁目)の近隣が現在まで35年にわたって局所的にあまり発展しなかったことにあると考えられます(での投稿)。2022年に撮影した下の写真で One Worldwide Plaza 周囲を見ると、非常に古く傷んだ建物がまだまだ多いことが分かります。建築物の高さが低いことは別問題で、それは一部の例外を除いて高さが規制されているためです。
One Worldwide Plazaの西側 (9th Aveに面する) には、同時期の1988年に開発された Two Worldwide Plaza という、高層・低層の複数棟から成るコンドミニアム群があります。日本人向けには単に「ワールドワイド・プラザ」としばしば宣伝されます。 品質や利便性についてはこれも「今となっては…」という形容が当てはまり、また場所柄、投資目的での購入者が多かったという特徴があります。