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NY不動産市場

ニューヨークシティ 2021年第1四半期 家賃上昇、売買件数前年越え ~ 郊外需要は収束

賃貸物件では、2020年はCOVID-19に起因する空室率の高さから、年末になっても家賃が下げ止まらず、2021年1月にもダメ押しのような値下げが多数見られました。しかし、2月に入って値上げに転じた物件がとても多くなりました。

住宅売買に関しては、税制の悪化にも拘わらず 2020年後半に取引数が前年並みに到達しましたが(参照:マンハッタン住宅統計についての記事)、2021年1月にも増加が続き、前年の水準を完全に超えました。

2020年夏以降に急拡大したニューヨーク郊外の住宅の購入需要は、2021年には以前の水準近くに逆戻りしました。郊外の住宅は数が比較的少なく市場価格の変動が大きいので、夏以降に購入した方は、高値掴みをしたかもしれません。

2021年2月16日掲載 ・ 第1四半期中のデータを随時追加

➡ 2021年夏の賃貸市場は更に上昇 《 2021年7月 マンハッタン賃貸市場は前例のない椅子取りゲーム:殺到する申込み、家賃の急騰 》


NYC 住宅賃貸市場

家賃

私たちが定点観測するマンハッタン・ブルックリン・クイーンズの主要賃貸物件の多くでは、1月末頃から家賃の上昇が目立つようになりました。契約上の家賃だけでなく、家賃無料月を1か月分減らすことにより実質家賃(Net Effective Rent)が上昇する例も見られます。Douglas Elliman が集計するマンハッタンの実質家賃の中央値も、2020年11月に底を記録してから 2か月間で 2.5% 上昇しました。2月のデータが出るとさらに上昇していると想像されます。なお、当チームの観察と、集計されたデータとの違いは、同一物件でもデータには契約完了後に反映される一方で私たちはマーケットで借り手を募集中に認識するという時間差があることと、主に比較的大型の賃貸物件を取り扱っていることから生じると考えられます。

マンハッタン実質家賃の推移

賃貸契約件数

複数の大型賃貸物件の担当者から、2021年1月には契約数が順調に増えてきたと聞きました。1月の増加は、極度に落ち込んだ実質家賃に惹かれてニューヨーク市内で引っ越した人たちを反映した部分もあると思いますが、1月は元々引越しを考えるアメリカ人がそれなりに多い時期の一つです。そういった季節要因が需要を高めるきっかけになったとしてもおかしくありません。そして、需要が高まれば貸主は家賃を引き上げます。

2021年2月15日(月曜)は President's Day と呼ばれる休日でしたが、今年はこの三連休のうち特に14日と15日に賃貸物件を訪問する人がかなり増え、賃貸会社や家賃保証会社から当チームへの回答が滞るほどになりました。例年、アパート探しをする人が大きく増えるのは夏時間が始まる3月中旬からで、President's Day の時点ではそれほどではありませんでした。今年は明らかに傾向が違います。

なお、契約数増加の裏付けとして、マンハッタンの空室率が 2020年10-11月の 6.1% をピークに下落に転じていて、2021年1月は 5.3% でした。


NYC・NY郊外 住宅売買市場

マンハッタン・ブルックリンの売買件数

マンハッタンのコンドミニアムの売買契約件数(1つ目の図の黒線)は、2020年第4四半期から前年を上回り始めました。2021年1月の契約数は 360件で、前年の 239件から 50% 増加しました。特に、$500,000 以上 $1,000,000 未満のコンドミニアムでは 77% の増加、$1,000,000 以上 $2,000,000 未満のコンドミニアムでは 68% の増加でした。

ブルックリンのコンドミニアムの売買契約件数(2つ目の図の黒線)は、2020年7月から大きく上昇し、その後も 2021年1月の契約数は 194件と、前年の 113% 増し、つまり 2.13倍に上りました。$500,000 以上 $1,000,000 未満のコンドミニアムでは 90% 増加、$1,000,000 以上 $2,000,000 未満のコンドミニアムでは 120% 増加しました。

マンハッタン コンドミニアムの売買件数 ブルックリン コンドミニアムの売買件数

ニューヨーク郊外の売買件数

ハンプトンズ、ロングアイランド、ウェストチェスターなどの郊外では、2020年夏に一戸建て売買契約件数が大きく上昇しましたが、それから間もなく下落に転じました。ハンプトンズに限っては、下がったと言っても 2021年1月は前年度の 43% 増しでしたが、ロングアイランド(ハンプトンズとノースフォークを除く)では僅か 3.5% の増加。ウェストチェスターでは夏には前年の2倍を超えましたが 2021年1月には前年比 17% 増しの水準に低下しました。

下は、ウェストチェスターにおける一戸建て売買契約数の推移です。

ウェストチェスターの住宅売買件数

一過性の郊外人気

COVID-19 のパンデミックが始まってから、ニューヨークシティからNY郊外や他州に逃れた人が(特に高所得者の中に)多いと言われましたが、そのブームは半年も続かなかったことになります。ライフスタイルを考え直し、長期的考えで郊外に定住した人は一定数いるでしょう。その一方で、郊外の生活を単調に感じて "飽きた"(Bloombergの記事による)と言う人や、都市生活者にとっては干渉とも捉えられる人間関係に馴染めない人もいます。2020年8月に東海岸一帯をハリケーンが襲ってNY郊外が広範囲にわたって何日も停電したことも、ニューヨークシティへの回帰を後押ししたことでしょう。実際、郊外に避難していて停電に遭い、市内に戻った人たちがいます。

また、COVID-19 検査の陽性率に関しては、これを書いている現在ではNY郊外の方が概ね高く、ニューヨークシティの特にハーレムより南のマンハッタンやその周辺では 2-3%台に抑えられています。

ウェストチェスター郡の全住宅数と同じだけの住宅が、ニューヨークシティのアッパーウェストサイドに存在すると言われています。COVID-19 の流行と言う、長らく例がないパンデミックにより、ウェストチェスターなど郊外の住宅需要は瞬く間に急騰しました。しかし、ニューヨークシティの住宅数は非常に多いため、シティの住宅需要が復活し、その分マーケットが相対的に小さい郊外の需要が奪われると、郊外で売買数や売買価格の大きな巻き戻しが起こります。ウェストチェスターを例にとると、2020年第4四半期の住宅売買価格の中央値は、第3四半期から 15.4%の下落を記録しました。夏に郊外の住宅を購入した方は、高値掴みとなった可能性があります。

これから米国の大部分の住人にワクチンが行き渡ること考えると、中長期的な資産価値がどの地域の不動産から生まれるかを熟考しなくてはなりません。ニューヨークシティでは 9.11 のテロリズムの際も将来を相当悲観的に考えた人が多かったはずですが、その後の復興と不動産価値の上昇は誰もが目の当たりにした通りです。

出典:掲載データの全ては Douglas Elliman による

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