マンハッタン住宅売買統計 2021年 各四半期
米国リアルター協会の中古住宅販売データ(住宅販売データの99%を構成)によると、ニューヨークなど9つの州を含む米国北東部において、集合住宅(コンドミニアムとコープ)の販売数は 2021年に 20.3% 増加しました。売買価格の中央値は 11.0% 上昇しました。
月別に見ると、1-3月と9-11月の売買数が多かったのですが、12月も需要が弱かったわけではなく、市場に出る売り物件の数が追いつかなかったために起こった売買数の減少でした。需要が強かった証拠に、12月の価格は7-8月並みに再上昇しています。
マンハッタンでの2019年と2020年住宅売買市場の傾向は、後述する複数の要因もあり他の地域と違いがありましたが、COVID-19のワクチンが普及した2021年は他の地域と似た傾向にあります。以下でそれをご紹介します。
2022年2月8日 最終更新

売り物件が不足するほど高まった住宅需要
マンハッタンの住宅販売数(灰色の棒グラフ)の2021年の合計は 2020年から 98% 増加と、ほぼ2倍に達しました。第2四半期以降、住宅の売れ行きが良く取引価格も上昇したため、売りに出す家主が増えました。第4四半期には売買数がやや低下しましたが、これは強い住宅需要により住宅在庫が 二割程度減ったためです。つまり供給が追い付きませんでした。
価格を示した折れ線グラフ3種のうち、新築と中古を合わせた全体の中央値(オレンジ色)にご注目下さい。新築住宅価格(緑色)は、幅広い中古住宅価格の中央値(青色)と比べるとずっと高いため、中古住宅の傾向を把握するにしてもオレンジ色のグラフの方が一般の方に人気がある品質の物件傾向を良く表しています。このオレンジ色のラインによると、第4四半期の住宅価格は前年同期から 11.4% 上昇しました。コロナウイルス出現前の 2019年第4四半期と比べると、17% の上昇です。
最も販売数が多かった価格帯は、$2-$5 Millionです。また、全額現金による購入が 45% と、過去8年間の最も高い水準に肉薄しました。こうなる理由は、購入希望者が複数いる場合、売主は買主に住宅ローンの承認が下りるかどうか分からない、またはローンが下りても時間がかかりそうという不確実性を嫌い、現金一括での購入希望者と契約するからです。
クイーンズでもなくブルックリンでもなく「マンハッタンが良い!」という選択
COVID-19のワクチンがまだ出来ていなかった2020年は、多くの人がマンハッタンから逃れて、ニューヨークの郊外やアメリカの南部や中西部の都市に移住しました。2021年に入り、そういった人がニューヨークシティに戻り始めた頃は、マンハッタンよりブルックリンに人気がありました。しかしすぐに、マンハッタンの住宅を選ぶ人が優勢になりました。
この点はデータからも分かります。2021年第4四半期のブルックリンの住宅価格は、前年同期から 7.5% 上昇しました。これはマンハッタンの 11.0% より低く、ブルックリンの住宅価格の方が低くて価格が本来上がりやすいことも考えると、大きな差です。
新築
新築コンドミニアム販売価格の中央値(緑色)は 2021年に伸び悩んでいますが、ラグジュアリーとそれ以外の物件では傾向が違うため、要約は困難です。当チームの観察によれば、相対的に価格の魅力がある新築物件(例:$1 Million 台の 1-Bed/1LDK)や、プライベートテラス付きの新築物件は、短期間で成約する例が目につきました。
インフレと資産バブルの影響
パンデミック中から2021年終わりまで、FRBの大規模金融緩和政策により、暗号資産(仮想通貨)や米国株式だけに留まらず、広範囲の資産クラスで価格の上昇が起こりました。加えて、インフレは進みましたが、米国では給与もそれなりに上昇しました。負債の側では、金融緩和の直接的な影響として、住宅ローンの金利が歴史的な低さで推移しました。どちらも一言で言えば「金余り現象」です。価格が上昇した資産を元手の一部として、低金利のうちに不動産を購入した人は多いはずで、住宅購入競争により一層価格が上昇しました。
売買需要を先食いして高めだった2019年の中古住宅価格を2021年は完全に超えた
2020年の売買数および売買価格の低下には、COVID-19 以外に2019年の税制変更の反動もあります。つまり、2019年の販売価格は、下でご説明する需要の先食いにより上がっていたわけです。2021年の販売価格は 2019 年の水準を上回り、マンハッタン不動産市場の回復ぶりが明らかでした。
- 2019年第1四半期・・・4月1日付けで、ニューヨーク州の「トランスファータックス」(譲渡税)が、$3 Million 以上の住宅売買を対象に 0.4% から 0.65% に引き上げられました。このため若干の売り急ぎが起こり、それ以降の住宅売却が減少しました。
- 2019年第2四半期・・・7月1日付けで、$1 Million 以上の住宅購入にかかる「マンションタックス」(いわゆる贅沢税)の税率が、それまでの 1.0% 固定から、金額に応じた税率(例えば $2 Million 以上 $3 Million 未満の売買では 1.25%)に変更されたため、駆け込みの売却が多数発生しました。購入者にとっては安い税金で買える期限であったため、物件の取り合いになり、全体価格の上昇に寄与しました。同じく、これ以降の住宅売買にマイナスの影響を与えました。
冒頭の図表は当チームが作成。元データは Miller Samuel 社によります。