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その不動産会社は本当にあなたの代理人ですか? NYの手数料不要賃貸にも仲介料を取る日本式「両手仲介」

ニューヨークで賃貸住宅をお探しの方が日系不動産仲介会社をお使いになると、貸主が仲介手数料を負担し本来お客様が負担しなくて済むはずの場合でも、「両手仲介」「両手取引」により仲介手数料を請求されます。不動産仲介会社が貸主との間の金銭関係をお客様に開示し同意を得ない限り、これは違法です。また、例えお客様に事実を開示し了承を得ても、利益相反状況にあり代理人というにはふさわしくないことに変わりありません。

お使いの仲介会社がお客様の代理人として機能するかどうか、また、お申し込み先の物件が仲介料なしになるはずのものかどうか、お客様が確認する方法があります。

2025年8月11日 最終更新

それをご説明する前提として、アメリカでは不動産仲介会社の役割が日本とは違うということを理解する必要があります。アメリカでは企業買収から不動産仲介に至るまで代理人の概念が発達しており、不動産仲介会社は貸主か借主(または売主か買主)のどちらか一方の利益のために仕事を行います。そのうち、貸主側の不動産エージェント(Landlord's Agent)は、貸主の物件を広告して借り手を探すことが役目であり、借りたいと問い合わせてきた人に他に良い物件を探すことはありません。これに対し、借主側のエージェント(Tenant's Agent)は、借主のために最適な物件を探します。

ニューヨークの不動産エージェントは、お客様に対して、自分がこのどちら側の代理人であるかを NY州所定のディスクロージャーフォーム(リンク先ページの2番目)を用いて説明する義務を有します。これは消費者保護を意図したニューヨーク州の法的手続きで、当チームも必ずお客様にご説明して確認のサインを頂きます。サインをして頂く時期は、お客様に具体的なサービスを提供する前でなくてはありません。知る限りで、日系他社に過去ご依頼になったことがあるお客様には、このディスクロージャーフォームを提示されなかったという方が多数いらっしゃいました。

New York State Disclosure Form for Landlord and Tenant

借主の代理人となる不動産仲介会社は、貸主から受け取る金銭的対価に仕事を左右されるべきではありません。その可能性を排除するためのルールとして、不動産仲介会社は貸主から仲介料などいかなる名目であれ対価を受け取る場合、その内容を借主のお客様に開示する義務(Fiduciality Duty)があります。これは米国の各州で 1990年代に法制化されました。

この開示義務があることも作用して、貸主がマーケティング目的で借主に代わって仲介料を負担する場合、借主は仲介料を支払わなくて良いことが普通です。

ニューヨークのほとんどの日系不動産仲介会社は、どの賃貸物件がお客様に代わって仲介手数料を負担するかを開示しません。(注: 家主から貰うのは「仲介料」でなく違う名目だと主張したところで法的には全く同じで、言い訳は通用しません。)また、仲介料を貸主と借主の双方から二重取りすることが普通であるかのような説明をお客様にしたり、「お客様から頂くのはリロケーションフィーであって仲介料ではない」という、法的には成り立たない説明をしています。こうして、米系不動産会社であれば無料で仲介できる賃貸物件の仲介においても、日系仲介業者を使った方は仲介料を支払うことが大半のようです。最近(2024-2025年)では、ヘルズキッチンの The Ellery (312 West 43rd St, New York, NY) という新築賃貸物件の仲介でそのようなことが行われていたようです。それは違法です。

その弊害は、仲介料の問題にとどまらず、サービスの基本姿勢に及びます。

  • そういった不動産仲介会社は、仲介手数料を二重取りできる賃貸物件を仲介しようと、物件の勧め方が偏る蓋然性が高まります。例えば、上で言及したThe Elleryは、West 42丁目を挟んでPort Authority Bus Terminalに向かい合った立地で、観光客だけでなく周辺をたむろするだけの人が現在でも多数います。実際の場所をよくご確認頂いた上でその物件を契約したいと考える方は一般的に言って多くないはずです。それでも日本人駐在員家庭に仲介が行われ、Youtubeでも特に日本人向けに紹介されたことから判断すると、その日系仲介会社がそれを強く勧める金銭的動機があったと考えるのが自然です。
  • 当チームのように貸主か借主のどちらか一方からしか仲介手数料を受け取らないエージェントであれば、お客様のご勤務先が仲介料を負担する場合に、貸主に対して「仲介料は負担してもらわなくて良いから、代わりに家賃を1か月分無料にして欲しい」と交渉できます。それにより、お客様の予算に入っていなかった賃貸物件を予算内で仲介できます。両手仲介を行う会社にはこれが不可能です

以上のような問題を避けるために、賃貸住宅をお探しの方(あるいは駐在員を派遣する企業や政府機関の総務ご担当者)はどうすればよいでしょうか? 次の二つです。

  • 不動産仲介会社に仲介を依頼する前に、貸主が仲介手数料を負担する場合はお客様が仲介料を支払う必要がないか確認する
  • その賃貸物件のリーシングオフィスの担当者に「不動産仲介会社(=Tenant's Agent)に仲介手数料が支払われるか」と質問する

日本の両手仲介事例 ~ 売買での利益相反

「両手仲介」の弊害は、それが法律の明文で禁止されていない日本の事例から良く分かります。例えば、不動産会社A が、ある売主の住宅を売却する契約を結んだとします。売却が成功すると、A は報酬として売却価格の 3% を売主から受け取ることが決まっています。不動産会社A の本来の役目は、売主の代理人として最高値で物件を売却することですので、不動産業界のデータベース REINS に広告します。別の不動産会社B を通して購入希望者が現れ、5,000万円で売買が成立したなら、不動産会社A は売主からその 3%(150万円)を受け取り、不動産会社B は買主から仲介手数料 3% を受け取ります。しかし、もし不動産会社A が自身の顧客にその物件を売却すれば、両側から手数料収入を得られます。それが「両手仲介」「両手取引」です。

この場合、A は自社の限られた潜在顧客層から買主を探しますので、売主が希望する価格で売却出来ない可能性が高まります。しかし、希望価格より 10% 低い 4,500万円でしか売却できなかったとしても、不動産会社A は、売主と買主の双方から合計 4,500万円 x 3% x 2 = 270万円を得られ、他社を通じて 5,000万円で売却した場合の手数料 150万円と比べると、80% も高い手数料を得られます。売主の利益の最大化は達成されず、不動産会社A が自身の利益を追求しています。

日本では不動産取引のかなりの割合を、このような「両手仲介」が占めます。その比率は、Diamond Online に掲載されたこのレポート をご覧下さい。多数の不動産会社において、両手仲介の割合が 50% を超えています。

賃貸での利益相反 日・米の例

日本では、貸主と借主の両方から仲介料やその他の対価を受け取る「両手仲介」「両手取引」が広く行われてきました。しかし、令和元年(西暦2019年)11月、東京地裁は、仲介業者が貸主と借主から合計で家賃1か月分(宅建業法46条が定めた上限)を超えて仲介料を受け取ることを違法とする判決を下しました。

また、平成25年(西暦2013年)6月26日の東京地裁判決では、家賃1か月分を超える仲介料を「広告料」などの名目で別途受け取ることが違法と明確にされています。それにもかかわらず、名目を変えた仲介料の二重取りが合法だと誤認した日本の仲介会社は多かったようです。そういった会社は、家主から何らかの支払いがある賃貸住宅を優先的に紹介する動機が生じます。借主は、不動産会社が良い物件を探してくれる専門能力に期待して手数料を払っているにも関わらず、逆に仲介会社だけが知り得る業界知識の壁に阻まれ、希望条件に最も合う物件を紹介してもらえないという不利益を受けます。

同様のことがより劣悪な金銭条件で起こっているのが、日系不動産仲介会社が仲介するニューヨークの賃貸市場です。ニューヨークには今も、特に新築や築浅住宅を中心に、プロモーションのために仲介料を負担する賃貸ビルがあります。その場合に仲介料をどうするかをウェブサイトで説明する日系仲介会社がどこにも見当たりません。貸主からも借主からも仲介手数料を受け取れば、その仲介料の合計額は、元から仲介料率が高いことと相俟って、1万数千ドルという法外な額に達することがざらとなります。

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