パンデミック下の新しい利益相反 投資家と管理受託会社が同じ建物に物件を所有
COVID-19 の流行に伴い、ニューヨークシティの多くの住宅で過去10年以上なかったほど多数の空室が出ている中で、不動産会社(物件管理受託会社)のこれまで意識されていなかったタイプの利益相反が顕在化しています。
問題となるのは、次の二つが揃う時です。
- 投資家が所有コンドミニアムの管理を不動産会社に委託して、その不動産会社が借り手を募集している
- 上と同じ建物内に、その不動産会社自身が所有し借り手を募集している別ユニットがある
このように、利害関係がある者の物件同士で貸出し競争が起きている投資用コンドミニアムには、「全戸数の22%を日本人投資家が買った」と昨年ご紹介した Nine52 があります。他にも若干例はありますが、Nine52 ほど大掛かりな利益相反の事例は他に見つからないでしょう。
Nine52 には、日系不動産会社R の仲介で日本人投資家が購入したコンドミニアムが多数あり、R社は投資家からそのコンドミニアムの管理を受託し、日本人駐在員を主な対象に短期サービスアパートとして多く貸し出していました。上に挙げた条件の一つ目に当たります。
その後、2019年第1四半期に、R社が 8ユニットを日本人投資家から購入したことで、条件の二つ目のお膳立てが出来上がりました。そして COVID-19 の煽りを受けて、日本人駐在員がニューヨークに来られなくなり、R社と投資家が同時に長期間空室を抱えたことから、利益相反を生む状況が現実になりました。
2020年8月17日現在、R社は自社が所有するユニット(これまでマーケットに出さなかったと思われるもの)と、投資家が所有するユニットの両方の借り手を募集しています。
R社に最も利益が出るのは、自身が所有するユニットの空室を先に貸し出すことです。逆に、顧客である投資家の利益を優先するなら、それら投資家所有ユニットの空室に先に借り手を見つけなければなりません。本来は借り手に空室の中から選択してもらうべきですが、仮に R社が自身の所有ユニットばかりを借り手に勧めたとしても、「お客様が弊社所有物件を気に入ったから」と説明すれば、投資家は不動産会社がどう営業するかまでは把握できませんので、それ以上疑念を追及することが困難です。
なるべく公平に借り手を見つけることが不可能だとは言えませんが、不動産会社所有物件と投資家所有物件の管理を同じ建物の中でその不動産会社が同時に行うという、利益相反が原理的に避けられない不透明な状況を R社が作ったこと自体が非常識です。利益相反に対して鈍感すぎると言えます。

投資家の皆様は、購入時の仲介や管理を依頼した不動産会社が誰の利益のために働いているかを、注意深くお考えになるべきです。売買の仲介、貸主を代理した賃貸仲介、借り主を代理した賃貸仲介、自己資本による不動産投資を同時に誰にでも行うことを謳う会社ほど、利益相反が生じます。
原則的に、どの不動産会社でも同じような取引が可能ですが、それでも、優先する取引を規定したり、利益相反を回避するためにあらゆる手段を取ることで、お客様の利益の侵食を防ぐことが可能です。そのような営業ポリシーがない不動産会社の、一見便利そうな営業文句につられると、投資家の利益が奪われるだけです。既存の取引先不動産会社に疑念が生じた方は、ご遠慮なく弊社にご相談下さい。