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NY不動産市場

The FARE Actで家主側エージェントの手数料は借主負担でなく家主負担に(管理物件の仲介料が一変)

ニューヨーク州で "The FARE Act" (The Fairness in Apartment Rental Expenses Act) と呼ばれる、仲介手数料及び各種費用に関する法律が施行され、(1) 家主側エージェント (あるいは 賃貸管理会社) がお申込者から仲介手数料を徴収することの禁止、(2) 申込時と賃貸期間中に家主に支払う各種費用の事前開示義務  の二点が法制化されました。NYにいらっしゃる日本人に最もインパクトがあるのは、不動産仲介会社の管理物件に申込む場合に仲介料が普通ならかからなくなることですが、法律に抜け道が残されました。

2025年10月4日 掲載

法の主旨(1):「家主側不動産会社(賃貸管理会社)は、借主にとって仲介を依頼していない単なる申込先なので、仲介料を払う必要がない」

家主の物件を広告する者には次の種類があります。

  • 家主からテナント付け (物件管理) を委託された不動産仲介会社、別の名では「賃貸管理会社」、またはその所属エージェント
  • 賃貸ビルの所有企業が自ら運営するリーシングオフィス

アメリカの仲介会社は、原則として家主か借主かどちらかの利益を代理するために仕事をします。日本ではこの区別が曖昧ですが、広告を行う家主側のエージェントは、住宅をお借りになる方のためのエージェントではありません。

住宅を借りる方が起用するのは「テナンツエージェント / Tenant's Agent」、つまり借主側の不動産エージェントです。市場動向や慣習や物件探しの手順をお伝えしたり、多くの賃貸物件の中からお客様にとって最適な物件をお探しすることが仕事です。利益相反の可能性を排除するため、原則として上記の家主側の代理と兼務しません。

The FARE Actが問題視したのは、上記箇条書きの一つ目に挙げた、家主側の不動産仲介会社、あるいは賃貸管理会社です。彼らは、依頼を受けた特定の家主 (個人不動産投資家を含む) のために物件の管理業務を行っています。住宅をお借りになる方のためには仕事をしておらず、借りてくれる人を早く探すことが仕事です。なので彼らが仲介手数料を取るのはおかしいのです。インターネット上の一般消費者向け賃貸広告 (家主側が出稿します) のうち、これまで "No Fee" と広告されていなかった賃貸物件がこれに該当し、The FARE Act 施行後はフィーを取ることが禁じられました。

なお、賃貸住宅をお探しの方が、テナンツエージェンツとしての不動産仲介会社に住宅探しを依頼する場合は、その対価として仲介手数料が必要になります。この点は従来と同じです。(その上で、家主がプロモーションとしてその仲介料を負担してくれることがあります。)

The FARE Actの成立により、従来必要とされた仲介手数料が不要となる物件例

従来から、全ての家主側エージェントが借主から仲介料を取っていたわけではありません。リーシングオフィスを備えた比較的大手の賃貸専用ビルでは、彼らへの仲介料は従来から必要ありませんでした。それ以外の物件では、家主から雇われたエージェントへの仲介料が必要なことが多々ありました。具体的には次の種類の物件です。

  • 賃貸に出されたコンドミニアムやコープのユニット。つまり個人投資家の区分所有住宅で、個人投資家それぞれが管理を不動産会社に委託した物件。価格帯は、高級なものからそうでないものまで、またエリアもマンハッタンからそれ以外まで、広い範囲で存在する。これまでも一部の家主は、自身が雇った不動産エージェントに報酬を払っていたが、そうでない家主が大きな割合を占めていた。
  • 賃貸専用ビルで、全ユニットの賃貸業務をNYCの中小の不動産仲介会社に委託したもの。特に、価格帯が低めで、探すエリアをクイーンズやブルックリンに拡げるほど、家主側エージェントへの仲介料が必要な物件が非常に多かった。

これまで、テナンツエージェントをお使いになるお客様がこういった物件に申し込む際、家主側ブローカーの分を含めた仲介手数料が年間家賃の15%に設定され、それを家主側エージェントとテナンツエージェント(例えば弊社)で折半することが主流でした。今後は家主側ブローカーの仲介手数料が原則不要となります。注意すべきなのは、こういった物件の例に、不動産仲介会社の管理物件が含まれることです。

「管理物件」を持つ不動産会社に仲介料を払う必要はない。しかし抜け道がある

借主であるお客様が不動産仲介会社に物件探しを依頼した際に、その仲介会社がいわゆる「(自社)管理物件」を勧めて仲介に至った場合、この法律が想定する標準的なシナリオでは仲介料を払う必要がありません。名目が「仲介手数料」でなく「リロケーションフィー」でも同じことで、そのような名目の言い逃れは法律では許されません。しかし、仲介料の請求を正当化する抜け道が一つならず存在します。例えばそのためにはNY州所定の開示書類にサインし直すことが必要ですが、詳しい知識のない日本人を相手にする不動産仲介会社であれば、その英文の書類につき十分な説明をせずお客様にサインさせることが容易に想定できます。書類へのサインすら求めない抜け道も考えられます。

詳細は別途執筆する予定です。

2021年の構想が実現した法改正

この法律は、仲介料の透明化を目指す議員にとっては、2021年以来の悲願となります (抜け道はありますが)。2021年の改正時は、法律中にこの分野が十分に明文化されておらず、文言の拡大解釈に頼ったため、『NY州の「家主側エージェントが借主から仲介料を取ることを禁止」した命令は無効に』なってしまいました。左のリンク先は当時掲載したコラムです。

法の主旨(2):賃貸物件への申込み時や、契約後に必要となる費用の明細を、申込み前に説明する義務

家主を代理するエージェントがテナントからフィーを取れなくなると、その他の名目で家主やそのエージェントがフィーを取ろうとすることが容易に想定されます。恐らくそのためもあって、あらゆる手数料や料金の明細を事前開示することが義務付けられました。

お申し込み後に発生する費用にも事前説明義務があります。アメニティーフィー、ガス・上下水道代の有無、ペットフィーなどがそれに該当します。


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