アメリカの家賃保証(第三者保証)を正しく理解する
ニューヨーク(アメリカ)で賃貸住宅を借りる際は、大多数の物件において、平均的日本人にとっては高めの収入基準をクリアする必要があります。2019年までは家賃1年分を前払いしたりセキュリティデポジット(敷金)を多く納めることで収入基準を回避できましたが、2019年のニューヨーク州の法律改正 によりその手段は取れなくなりました。
2020年3月初稿掲載、2025年7月4日更新
収入が入居者審査の基準に満たない場合に他に取れる方法は、(1)ニューヨーク州近郊に在住する保証人を用意する (2)家賃保証会社の保証サービスを利用する のどちらかです。(例外的に、審査が甘い少数の物件では、何か別のサポート事由を提示することで保証人や家賃保証なしに審査を通る例がありますが、現在では少なく、予見可能性も低いです。)ここでは家賃保証会社(第三者保証機関、あるいは家賃債務保証会社とも)に申し込むための年収要件をご説明します。
2021年より、一部の保証会社は海外からいらっしゃるお申込者に対する審査の方法を大幅に変更しました。このコラムの記載内容も概ねアップデートしましたが、細部では今後も変わる可能性があるとご理解ください。当チームは法律の改正前から、家賃保証会社を使ったお申し込みをお手伝いした経験が何度もありますので、手続きや保証会社による違いを熟知しています。ここに記載していないノウハウを有していますので、詳細は仲介をご依頼される際にお尋ね下さい。
保証会社は複数ありますが、申込者本人に求められる年収は賃貸物件の審査基準より大幅に低く、家賃1か月分の 27.5 倍(=家賃1年分の約 2.3 倍)の年収です。米国にいる間の年収がそれに満たない場合、一定の預貯金や証券口座残高(合わせて「流動資産」)を証明することでも保証を受けられます。ただし、保証会社によっては、追加で多額の銀行残高証明を求めるものがあります。
保証料は、家賃1か月分弱で、ある程度の幅があります。
但し、家賃保証が使えない賃貸ビルもあり、一般的には、価格帯が下であったり非大手の賃貸物件ほど、家賃保証が使えないケースが増えます。

家賃保証への申込みに必要な基準については、2019年10月24日に US FrontLine に掲載された記事で、他社の不動産エージェントが誤った情報を広めてしまいました。
家賃の 50 倍の収入や 80 倍の預貯金という基準は、お申込者のご両親などが保証人として家賃保証会社に申し込む場合のものです。一定の収入や資産をお持ちの社会人のお申込者には該当しません。
賃貸契約の本人が家賃保証に申し込む際の年収基準は上でご説明した通り、原則として家賃の 27.5 倍です。預貯金(流動資産)の基準もこの解説と大きく異なります。
改正されたニューヨーク州の法律についても間違った説明がなされています。
家賃を前払いすることが「専門家の間でも意見が分かれる」「グレーゾーン」だったことはありません。条文も、州のガイダンスも、ニューヨーク不動産協会の顧問弁護士の答えのどれも、法律の改正当初から明快で、家賃の前払いは違法です。実際に、どの賃貸物件でも受け付けていません。(個人家主の皆様はお気を付け下さい。)
前払いの禁止を定めた条文がこちらです。"Advance" が家賃の前払いであることは自明です。また、"or" の意味するところを日本語話者は誤解しがちなのですが、これは Deposit(敷金)と Advance(家賃前払い)のどちらであっても合算して、合計1か月分以上を先に払うことは許されない、という意味です。敷金を1か月分払うなら、家賃の前払いは一切出来ないのです。(元記事にある、「意見が分かれた」「専門家」というのは、正しい情報を入手できなかった一部の日本人不動産会社や弁護士ではないでしょうか。)
“ No deposit or advance shall exceed the amount of one month’s rent under such contract. ”
NY General Obligations Law, Section 7-108(1-a)(a)
https://www.nysenate.gov/legislation/laws/GOB/7-108
NY Department of State が出したガイダンスに、さらに踏み込んで説明があります。
“ An agent representing a landlord may not request advance rent payments or security deposits greater than one’s month rent regardless of the length of the proposed tenancy. ”
Guidance for Real Estate Professionals Concerning the Statewide Housing Security & Tenant Protection Act of 2019 and the Housing Stability and Tenant Protection Act of 2019
https://www.dos.ny.gov/licensing/pdfs/DOS-Guidance-Tenant-Protection-Act-Rev.1.31.20.pdf
そして最後の段落にも、現在では当てはまらない箇所があります。
預ける「保証金」というのは、保証会社に預ける敷金(セキュリティデポジット)のことです。元記事の該当箇所の一つ前の段落で「この条件を満たさない場合は、フィーのほかに余分に1~3カ月分相当の敷金を要求されます」と書かれた部分の「敷金」と同じです。確かに、当該記事の執筆当時、ある保証会社は、学生には保証料を安くする代わりに家賃の2-3か月分に相当する敷金が必要とするプランを用意していました。しかし、そのプランは既に廃止されました。
また、本題ではありませんが、米国在住の個人保証人を使う場合の基準についても偏った情報による説明があり、「(保証人の)年収が家賃の90倍以上」とありますが、80倍前後のところが大半です。90倍が求められる物件は少数で、むしろ 75倍程度のところもあります。