アパートをタイムリーに貸し出す(投資物件・リースブレイク)
ある大手日系不動産会社が、ニューヨークの不動産情報サイトで賃貸アパートを広告していますが、2020年4月下旬から4か月間貸せていません。その不動産会社X社の仲介でそのユニットを契約された方がやむを得ず帰国したために、借り手を募集しているのだと思われます。ニューヨークの賃貸契約を中途解約(リースブレイク)する場合、1-3か月分の違約金を支払ってそのアパートを賃貸会社に戻すか、賃貸契約を誰かに引き継いでもらう必要があります(後者を特にリースアサインメントと呼びます)。賃貸会社でなくX社が広告しているということは、退去者(契約形態によってはX社の可能性も)が今も家賃を払い続けていることを意味します。
この不動産会社は他に、コンドミニアム(投資家が所有する住宅)の家具付きユニットを広告していますが、それも4か月間貸せていません。投資家にとって、物件を所有することによる節税メリットはあるかもしれませんが、家賃が入らなければ、固定資産税と管理費用分が赤字となります。現金での購入でなければ、毎月ローンの返済もあるでしょう。
貸せない理由は何でしょう?
広告価格が周りと比べて高過ぎる
貸せない一番の理由は、同じ建物内の他のユニットより数百ドル、率にして約15-30%も高いことです。当然、近隣のアパートよりも高いです。
例1)ミッドタウンイースト 賃貸専用ビル スタジオ
- 日系X社のリースブレイク広告 $3,290(n階)
- 賃貸事務所が広告するユニット $2,950(n+3階、広い、南向きバルコニー)
- 賃貸事務所が広告するユニット $2,480(n-5階、X社と同等の広さ)
- 他に日系X社より安いユニット多数
例2)ミッドタウンイースト コンドミニアム スタジオ
- 日系X社が広告するユニット $4,290(m階 58平米)家具付き
- 他の投資家が広告するユニット $3,830(m+14階 60平米)家具なし
- 他の投資家が広告するユニット $3,450(m+5階 55平米)家具なし
- 他に日系X社より安いユニット多数
4月の時点では他のユニットとの価格差が小さかったのですが、新型コロナウイルスの流行で空室が増えるにつれ、この日系不動産X社以外のユニットはどんどん値下げされました。X社は4月から全く価格を変えていません。市場を定期的に観察し、借り手がつく価格に調整していないだけでなく、家主・借主に適切な報告をしていないことも明らかであり、物件管理を委託されている会社としての義務を全く果たしていません。上記物件の家主と借主は、X社に委託したことで貴重な時間を無駄にし、家賃を毎月捨てています。
貸せない理由は他にもあります。
当初からの値付け戦略の誤り
多数の空室がある時、他より同程度か低い値段にしなければ、借り手がなかなかつきません。X社が広告した賃貸アパートの例では、広告開始時ですら他より数十ドル高い値付けをしており、始めから戦略を間違えています。
特に、賃貸アパートでは、同価格帯なら室内の品質が非常に似通っているため、「どうしてもこのお部屋に住みたい」という方はあまりいらっしゃいません。必ずいくつかの物件を比較検討され、同条件なら安い方に決まりがちです。
しかも、リースアサインメントを意図した物件の場合、管理会社は部屋の改修・清掃をせず、”As-Is”(そのままの状態)で貸しますので、他のユニットより条件が悪くなります。そもそも、解約不可もしくは違約金が高額であるために契約を引き継いでくれる借り手を探しているわけですし、現在ニューヨークの家賃はかなり下がっていますから、契約した時の家賃で引き継ぎ手を探すことはまず無理です。
仲介料無料のユニットに対しては勝ち目がない
この賃貸物件では、借り手を連れてきた不動産会社(例えば弊社)に仲介料を支払いますので、弊社のような不動産会社は、リーシングオフィスが広告するきちんと掃除された空室にお客様を紹介します。リースブレイク狙いのユニットにお客様を紹介するインセンティブがありません。
問い合わせへのタイムリーな返信が必要
お部屋を借りたい方から問い合わせがあった場合に、この日系不動産会社はタイムリーに対応しているのでしょうか。大多数のテナント候補(賃貸申込者)は複数の物件にほぼ同時に質問メールを出したり、電話をします。貸し手の不動産エージェントから即答がなければ、すでに借り手がついたものと判断し、すぐに興味は次に移ります。長期間貸せない物件を持っている不動産会社は、対応も含めて何かがおかしいと、普通の人は考えます。
複数の契約候補者とコミュニケーションを維持する重要性
タイムリーな返信に次いで重要なのは、バックアップとなるテナント候補とのコミュニケーションです。手続きを進めている候補が契約書にサインをするまでは、常にバックアップとなるテナント候補とのやりとりを続けてつなぎ留めておくべきです。既に内覧予約が数人入ったと気を緩めてはいけません。賃貸物件を預かった以上、家主・貸主のために最大限の努力をすべきです。

4か月間貸せていない理由をX社がどのように依頼主に説明しているのか、疑問があります。新型コロナウイルスだけが理由ではないはずです。
弊社は上記のようなポイントを押えて、皆様の利益を守り、物件を早く貸し出すために最善を尽くします。不動産会社がなかなか借り手を見つけられない場合、「付き合い」でうやむやにせず、速やかに別の不動産会社に切り替えるべきです。
契約途中で退去したい個人のお客様には、プロの目から見た価格の付け方やリースブレイクの仕方を私たちがアドバイスしますので、ご相談下さい。