アメリカのコンドミニアム 間取りの研究(1)
ニューヨークのとある新築コンドミニアム(日本で言う「新築分譲マンション」)を例に取り、日本では見られない間取りの特徴や、その物件の魅力や難点を解説します。使い勝手や貸しやすさはどうでしょう。価格に釣り合った間取り・内装でしょうか。最後に、投資に向いた物件かを検討します。【2024年6月更新】執筆から4年後の当該コンドミニアム・ビルディングの累積契約率と、販売価格を振り返ります。
2020年3月2日 初稿掲載; 2024年6月16日 最終更新
「間取り図」は英語で「フロアプラン」や「フロアレイアウト」と言います。これらは、コンドミニアムをご自宅としてご購入されるのであれば毎日の生活のしやすさに、投資用であれば貸しやすさと家賃に大きく影響する、大切なポイントです。同じ広さ(Square Footage)でも、フロアプランにより実際より広く感じたりも、窮屈に感じたりもします。
今回はアッパーイーストサイド南部の一等地、レノックスヒルと言われるエリアの、2020年2月に購入されたある新築高級コンドミニアムのフロアプランをご覧下さい。プライベート・テラスを含まない居住空間だけの床面積が約1,200 ft² (115 m²)と、稀に見る広さの 1ベッドルーム 1.5バスルーム構成のユニットです。但し、$2,500,000 という購入価格は、広さやロケーションを重視したとしても、下でご説明する難点を考えるとバランスが悪いと感じられます。
■ 魅力ある点
玄関を入って正面のクローゼットは、コートを掛けたり傘や靴を置くのに便利です。
広めのテラスは、屋外用のダイニングセットやソファーを置いてリラックスするスペースとして使えます。(最近の高層建築には各戸にバルコニーがつかないことが殆どです。)
玄関左手にパウダールーム(お手洗いのこと、ハーフバスルームとも呼ばれます)があり、お客様用として使えます。
マスターバスルームには、ダブルシンクと言って、二人が並んで使える洗面台が備わっています。
■ 難点
室内洗濯機・乾燥機(水色で示した 'W/D' = Washer & Dryer)には、何故かパウダールームからしかアクセスできません。不便なだけでなく、洗濯物をお手洗いを経由して取り出す点に、違和感をお感じになるかもしれません。
マスター・バスルームに、ベッドルームだけでなくクローゼットを通り抜けないとアクセスできない点が、致命的に使い勝手が悪いところです。普通の En Suite バスルームであれば、大きめの扉で直接バスルームにアクセスしますが、この物件はクローゼットを通り抜ける作りなのが不便です。さらに、通路を確保する必要があるため、クローゼットとしての機能は壁に沿った限られたものになります。もしかすると、バスルームの音がベッドルームに漏れにくいという利点はあるかもしれませんが、そのせいで主要なクローゼットスペースの利便性が大幅に下がっているのは、総合的に大幅な減点材料です。湿気の発生源がクローゼットと隣り合わせであることにも、何となく懸念が残ります。
クローゼットを通り抜けないで済む普通の En Suite バスルームが採用されていたとしても、万一来客にシャワーを使ってもらいたくなった時に、プライベートスペースを経由しなければアクセスできないのは不都合です。
En Suite バスルームの根底にある考えは、「ゲストが使えるパウダールームが別にあるのだから、フル・バスルームはお住まいになる方だけのものとして、ベッドルームから繋がっていて良いだろう、その方が便利だろう」というものです。つまり、高級な 1ベッドルーム(1LDK相当)でもパウダールームがないコンドミニアムや、日本の分譲マンションには、あまり見られない形です。二つのフル・バスルームがある住宅なら、一つは En Suite で構わないのですが。
ベッドルームの横のメイン・クローゼットが小さいと思われます。床面積が 1,200 ft² もあるのですから、もっと広いクローゼット、そしてウォークインクローゼットが欲しいところです。
■ 好みが分かれる / 対処が必要な点
ワンウォール・キッチンは、壁沿いにまっすぐ横に伸びたキッチンで、アイランドがない場合に特にそう呼びます。室内が狭いユニットには多いのですが、好まない方も結構いらっしゃいます。
それなりの広さの高級コンドミニアムであれば、イタリアンマーブル(しかも良い産地の高級品)やクォーツのカウンタートップを備えた大きめで収納も付いたアイランドが設置されていることが多く、料理の盛り付けをしたり、食事をしたり、ラップトップPCを置いたりするスペースになります。とりわけ近年は、大きなカウンターとシンクが付いた、リビングルームに目を配りながら料理や洗い物ができるアイランドの人気が高まっています。
ワンウォール・キッチンの使い勝手を良くするためには、リビングスペースとの間にカウンターの役目を果たす家具を置くか、キッチンに近いところにテーブルを置く必要があるでしょう。一方でディベロパーは、高価なアイランドを設置しないことで大きな建設費用の節約になったはずです。このコンドミニアムの販売価格なら、アイランドがあって然るべきではないでしょうか。
バスタブがなく、シャワールームだけがあります。バスタブを使わない買主が自宅として住むのでしたら問題ありませんが、高級な投資物件として拘りの多い借り手を見つけたいなら、バスタブがある方がバランスが取れています。むしろ、ニューヨークの高級コンドミニアムは 1ベッドや Studio でも広いので、バスタブとシャワールームの両方を備えているのが普通です。この物件は高価で床面積も十分ありながらバスタブが省略されているので、価格に全く釣り合っていない感があります。
このコンドミニアムは投資家が購入してすぐに、$7,995 の家賃で賃貸マーケットに出されました。約3週間経った現在 (※本記事を掲載した2020年3月時点)、まだ借り手がついていません。【2020年9月追記】 9月にようやく借り手がつきました。コンドの管理組合の審査があるため、入居できたのは9月後半だと思われます。募集から7か月を要しました。

この物件を貸し出し、家賃収入を上げる(つまり、目標の NOI を安定的に達成する)のは、難易度が高いと考えられます。その理由は次の通りです。
- 1ベッドルームのユニットとしては破格の広さでテラスも付く、いわば「規格外」の物件です。この広さと家賃を期待して1ベッドルームのアパートを探す人は滅多にいません。
- 規格外である割に、内容と価格のバランスが取れていない、そしてコストが掛かっていないと感じます。マスターバスルームの配置、収納の少なさ、バスタブがないこと、キッチンに備え付けのアイランドがないことが特にそうです。特別な物件を探す人がどの程度それらを良しとし(あるいは気付かず)、代わりに立地など別の要素を一般の投資家より高く評価するか(あるいは過大評価するか)にかかっています。
- 規格外のこの物件を求める人の少なさと、家賃の高さにより、テナントが退去するたびに、次のテナントが見つかるまでに比較的長い期間を要すると考えられます。この物件の税金とコモンチャージの合計は、毎月約 $3,500 です。仮に、1年のうち 1か月半が空室になると、$5,250 の持ち出しになります。これに家賃の逸失利益も勘案すると、年間で約 $17,240 の損失となります。なかなか大きな振れ幅です。
不動産投資家がコンドミニアムを購入するにあたり、非常に高価な新築物件を手に入れることによる自己満足に陥らないことは重要です。投資額に見合った収益を上げることを目的とするならば、もっと貸し出しやすいコンドミニアムを選ぶ方が優れた選択です。例えば、半額程度のコンドミニアムを2つ購入することです。年間の収入が増えそうなだけでなく、空室リスクを二つに分散させることもでき、収入が高めで安定します。一つの物件しか所有しないと、年によって空室期間の長さに当たり外れが大きく出来てしまい、運次第の収益となります。物件が「規格外」であれば、前述したように運次第の要素が一層大きくなります。
このような一点豪華的な投資や、減価償却による節税を重視するあまりか家賃収入への想定が甘いのは、良い投資ではありません。また、購入を支援したのが良い不動産エージェントであれば、クライアントにそういったアドバイスをするはずです。

【2024年6月追記】 このコンドミニアム・ビルディングの価値は大幅に下がりました。分譲開始から4年経過して、まだ売れていないユニットが約半数(55%)あると思われ、それらは昨年12月の時点で、当初の売出し価格から20-30%も値下げされています。マンハッタンでこの期間に値下がりした物件は珍しく、インフレーション分を差し引いた実質価値の下落率はもっと大きなものです。上でご紹介した「規格外」ユニットについても同じで、2022年に2人目のテナントに貸し出された際の家賃は、2020年の家賃から $995(-12.4%)低い、$7,000でした。
ここまでは、間取りと価格にフォーカスして割高と結論付けましたが、下に引用したXへの連投では、周辺環境にもネガティブな要素があったことをご説明しています。引用した記事は、ニューヨークでウェストサイド57丁目を中心とした超高級・超高層住宅が過剰になり、また人々の関心がそういった超高層住宅以外に向き始めたため、新築がだぶついて値下げされているという文脈で特集されたものですが、その記事の中に、そこまで高級ではない200 East 59th Stも入っていた事が異質なのです。
値下げ中のNYC新築高級コンドの特集。ビリオネアーズローの値下げ率が大きいのは先のツイート通りですが、この記事に、$5M程度以下でも20-30%も値下げされた「高級」物件が含まれることに気付きます。200 East 59th Stです。 https://t.co/IVCAvzAVAQ
— Oxford Property Group 〜 ニューヨーク不動産 (@NYCRE4J) December 3, 2023
'17年の分譲開始時、ユニット6A (1,416sqft) が$4.11Mで売れましたが、同じラインで現在分譲中の7Aは$3.15Mと23%下です。26E (1,720sqft) は$7.14Mから$5.5Mに23%値下げ、14B (835sqft) は$2.48Mから$1.815Mに27%値下げされ、今も販売中。インフレを考慮すると実質は相当な下落です。 pic.twitter.com/aNi1Dng5SC
— Oxford Property Group 〜 ニューヨーク不動産 (@NYCRE4J) December 3, 2023
売れない理由がトロフィー物件と違うことは明らか。それは立地・設備・価格の総合と思われ、検討すれば想像できたことです。Bloomingdale'sの一本裏の立地ですが、周囲にHomeDepotや家具店以外にめぼしい店がありません。トラムや橋に近いため交通がスムーズでなく、街が育ちにくい印象もあります。
— Oxford Property Group 〜 ニューヨーク不動産 (@NYCRE4J) December 3, 2023
この建物の地上1-2階部分は商業スペース(小売用)ですが、今も利用されていません。賃料と相対的に決まることながら、この立地に魅力を感じる消費者向け小売企業があまりいないことを示しています。
➡ ニューヨークのコンドミニアムを購入する意義やポイントは 《 不動産購入 》 セクションで