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物件評価

間取りの研究(4)キッチン前の通路への広さ配分、クローゼットの設計

シリーズ第四回では、ある高級賃貸ビル内の、ほぼ同じ広さのスタジオ(Studio)アパートメント2種類を比較します。

スペースが貴重なマンハッタンでは、キッチンをU字型またはギャレー型の専用空間にせず、壁沿いにフラットな「ワンウォール・キッチン」として配置した住宅があります。その一種には、リビングルームに面した壁にアイランドやカウンターなしでキッチンを作るケースもありますが、スペースの有効利用と機能性のバランスを取った例では、リビングに向かう通路を設け、その通路沿いの壁にキッチンを配置します。そうすることでリビングルームを独立スペースとして確保しつつ、通路の一部をキッチンとしても用いてスペースの利用効率を高めることができます。このことはスタジオだけでなく、それより広い住宅についても言えます。

次のフロアプランを比べてみましょう。両者は同じ縮尺で描かれた、同程度の床面積のスタジオです。

■ キッチン前の通路はどの程度の広さが適切か

この二つのレイアウトでは、入り口から続く通路兼キッチンの幅がずいぶん異なります。上のユニットに赤く色を付けた部分は、下のユニットの通路と同じ面積を示しており、通路の幅の違いが一目瞭然です。上のユニットでは約 38cm 広いようです。実は下の間取りでも、通路は標準以上の幅になっていて、少しも狭いとは感じられません。

住宅によって、こういった通路を意図的に広く作り、快適さと高級感を演出します。広ければ、キッチンで料理をしている人の背後を邪魔せず通れますし、後ろでコートを脱ぐことにも支障がないでしょう。

しかし、調理に快適なスペースが確保されていれば、通路がいくら広くても用途はあまり増えません。小型のダイニングテーブルや棚が置けるなら良いのですが、図中の上のユニットの場合、バスルームの扉の横にしか物を置く場所がありません。もし2つの浅いクローゼットに代えて、奥行きがあるウォークインクローゼットが一つであったなら、今のクローゼットの扉の一つは不要となり、その前に家具を置くことができました。

逆に下のユニットでは、通路は全体的に上より狭いですが、入り口からすぐに未着色の小さなスペースがあります。

■ キッチン前の通路とリビングエリア、どちらの広さを取るか

上のユニットでは、キッチン前の通路が広い分、リビングエリアが狭めです。また、通路がリビングエリアの中央につながっているため、ベッドを配置しづらくなっています。部屋の右側角にベッドを置く場合、ツイン(Twin)と呼ばれる幅38インチの規格であれば上手く収まりますが、フル(Full)と呼ばれる幅53インチのベッドは通路にはみ出します。

ツインは日本のシングル(幅100cm)、フルはダブル(幅140cm)とほぼ同じです。

また、フルのベッドを選んで、デスクや一人掛けソファを配置すると、部屋が少し窮屈になる予感がします。勿論、通路が広くて、リビングスペースも広いなら言うことはないのですが、贅沢なコンドミニアムでなければそこまで広い築浅スタジオは数少ないでしょう。

それでは、図中下側の、通路が通常の広さのユニットについて、当チームの評価をご説明します。

■ 魅力ある点
入り口横の小スペース

扉を開いた先に、傘や靴を置いたり脱いだコートを掛けられるだけのスペースがあります。

リビングエリアまでのアプローチ

繰り返しになりますが、スタジオであっても、リビングスペースに行くまでにこのように通路があると、扉を開けていきなり真四角の部屋が見えるより落ち着いた印象を受けます。この間取りでは、リビングスペースの手前にバスルームやクローゼットが配置されているため、それが可能になります。

効率よく明るいキッチン

通路としてしか使えないスペースを作るのではなく、通路の一部をキッチンとすることで、限られた床面積の利用効率を高めることに成功しています。リビングに大きく面していないので快適で、しかし距離は近いので照明だけに頼らなくても明るいですし、リビングエリアからの音楽を聞いたりテレビを見ながらでも料理ができます。

カウンタートップがシンクの両側にあるため、調理スペースは十分です。(図中の'DW'はカウンター下の食器洗浄機のことです。)

ウォークインクローゼット

ウォークインクローゼットを備えたスタジオアパートメントは高級物件でも数少ないです。普通のクローゼットより使い勝手が良く、衣装以外に少し大きなものを収納することも容易ですので、お勧めできます。

リビングエリアと通路の接続

通路がリビングエリアの一方の壁側につながっているため、リビングエリアの反対側にベッドを置くスペースが十分にあります。図中ではベッドを縦向きに配置する案を示しましたが、横向きでも窓との間にそれなりにスペースが残り、問題ありません。また、ツインでなくフルのベッドが置けますし、クイーンサイズも物理的に可能です。

室内洗濯機・乾燥機

言うまでもなく便利です。高級で広いコンドミニアムであれば、以前から、スタジオでも室内洗濯機を備えた物件は多くありました。しかし賃貸専用ビルで室内洗濯機を備えたスタジオがある程度出てきたのは、ニューヨークシティではこの10年未満のことです。

広いバスルーム

バスルームが広く作られているのは、比較的高級な賃貸住宅ならではと言えます。

■ 好みが分かれる点
室内洗濯機・乾燥機が場所を取っている

室内洗濯機・乾燥機を置くことで、その他のスペースが圧迫されることは確かです。スタジオならなおさら、この部分をクローゼットに使えたらとお考えの方もいらっしゃるでしょう。室内洗濯機はない方がよいという考えの方もいらっしゃいます。各階に洗濯機を置いた賃貸住宅もあります。

バスルームがもうすこし狭くてもよい

室内洗濯機と同様、マンハッタンのスタジオアパートメントならではの功罪ですが、バスルームはあまり広くても実用的ではありません。例えば、浴槽やトイレの大きさは普通決まっています。ですので、特にスタジオにおいてはバスルームを標準的な広さにとどめ、リビングエリアなどに割り振った方がより良かったかもしれません。とはいえ、スタジオとしてこのリビングスペースは標準的な広さがあります。


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