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パンデミック後のNYCはマンハッタンと隣接エリアに人口流入、ダウンタウンが特に人気(郵便番号データで解説)

パンデミックが発生してから数か月間で、ニューヨーク市から多くの人が転出しました。店の営業停止などの「ロックダウン」が行われたため、一時避難のつもりで出た人もいれば、仕事を変えて半恒久的に転出した人もいます。特にマンハッタンの人口は2020年2月から6月の間に10.9%も減少し、ニューヨークの都市としての魅力は終ったのではないかという論考もたびたび目にしたものです。

しかしマンハッタンは復活しました。正確に言うと、復活以上です。パンデミックから2年後の2022年2月に人口が完全に(つまり増減ゼロになるまで)回復しました。2年6か月後の2022年10月にはパンデミック前を1.8%上回るまで増加しました。当チームがこれまで賃貸市場の変化として発信してきた通り、マンハッタンの人気が一層高まり、短期間で人口が大きく伸びています。

2023年1月17日公開

マンハッタンの一人勝ち

下のグラフは、2018年2月を基準として、マンハッタン、ブロンクス、ブルックリン、クイーンズ、スタテン島の人口の推移を月次で示したものです。月次のため、パンデミック直後の急激な流出と回復の他、学校が終わる春に減少し始まる秋に増加するという季節性も見えます。


2018年2月からの累計を示すこのグラフでは、パンデミックが起こってからの変化が分かりにくいため、2020年2月から2022年10月までの2年8か月間と、直近12か月間の人口増減を算出したのが下の表です。ボロー単位ではマンハッタンの一人勝ちで、直近の方が増加率が高いことが分かります。対照的に、他のボローでは人口流出が続いています。

2020/2 - 2022/10
2年8か月
2021/10 - 2022/10
12か月
マンハッタン
+1.76%
+2.06%
ブルックリン
-4.41%
-0.93%
クイーンズ
-4.75%
-1.15%
ブロンクス
-3.83%
-1.04%
スタテン島
-5.40%
-2.00%


マンハッタンの人気が高まった理由は次のように考えます。

  • 利便性の再評価。平日に毎日オフィスに行く必要がなくなったとしても、職場に近く、かつ住宅の周囲が生活に便利な環境であることを重視した。「職住近接」志向
  • 「ソーシャルディスタンス」を強いられた面白みのない生活の反動で、人との多くの交流が見込まれ、文化的・商業的に生き生きとしたエリアを求めた
  • 金融緩和策に伴う空前の個人資産増加に後押しされ、快適さや利便性のために支出をする金銭的余力(およびムード)が高まった
  • 公共交通機関をあまり使わず、徒歩または自転車で行ける範囲で日常生活を済ませられる度合いを高めたいと考えた

人口が増えたエリアは?「ダウンタウン・ルネッサンス」

2019年11月から2022年10月までのちょうど2年間に、転入により人口が9%以上増えたマンハッタンのエリアは次の通りです。集計単位が郵便番号ですので、該当するエリア名を示しました。(出典の記事中ではエリア名が郵便番号を正確に反映していなかったため、ここでは記事に頼らずエリアを列挙し直しました。)

増加が集中しているのは、ダウンタウン(ローワー・マンハッタンとも呼ばれる)と、ダウンタウンに隣接したミッドタウン南部の人気エリアです。つまり表の4番目以降の Flatiron, NoMad, Gramercy, West Village, East Village, Chelsea, Tribeca, Financial District です。これらに共通する要素は、オフィスがあってもロックフェラーセンターやグランドセントラル駅周辺のような典型的なオフィス街ではないこと、職住近接を実現できて利便性も高い高級エリア、商業施設やレストランなどの新陳代謝が高く高級店も多い、そしてブルックリンやローワーイーストサイドのヒップな文化圏に近いことです。

1番目のLincoln Square西部は、数年前に高級住宅が開発されたウォーターフロントです。Lincoln Squareには、Upper West Side の中ではとりわけ多くの商業施設、劇場、大学、大手企業が存在し、コロンバスサークルやミッドタウンへのアクセスも良いため、職住近接のコンセプトにも合って好まれます。

郵便番号
該当エリア
増減
10069
Lincoln Squareのハドソン川沿い
(72nd-59th St)
+30.7%
10016
Murray Hill, Rose Hill, Kips Bay北部
(East 40th-26th St)
+9.8%
10044
Roosevelt Island
+16.8%
10010
Flatiron, NoMadの大部分, Kips Bay南部
(East 26th-20th St)
+12.0%
10001
Chelsea北部
(West 35th-25th St)
+15.2%
10003
Gramercy, East Village西部
(2nd Ave以西)
+26.1%
10014
West Village, Meatpacking District
+17.6%
10038
Financial District北東部
+25.3%
10007
Civic Hall(Financial Districtの北), Tribeca南部
+18.3%
10004
Financial District南部
+12.0%

Roosevelt Islandに人口が増えたのは、Cornell Techキャンパスが 拡大したことと、他より安い家賃と場所のバランスが評価されたためと考えられます。

余談ながら、Upper East Sideでは、80th Stから76th Stの間(郵便番号では10075)を除く全域にわたって1%台から3%台の人口流出が起きているのが興味深いことです。

ブルックリンでもマンハッタンに近いエリアには人口流入

ブルックリンやクイーンズでも、マンハッタンまで地下鉄で一駅から数駅のエリアには人口が流入しています。上と同期間を対象としたこの統計を見るまでもなく、近年はDowntown Brooklyn, Fort Greene, DUMBO, Williamsburg, Greenpointの新しめの住宅で、家賃がマンハッタンよりほんの少し安いだけの水準まで上がっていましたので、人気は多くの人に認識されていただろうと思います。

郵便番号
該当エリア
増減
11201
Downtown Brooklyn, DUMBO,
Brooklyn Heights, Fort Greeneの一部
+4.7%
11211
Williamsburg
+3.0%
11238
Prospect Heights, Crown Heights西部
+1.8%
11216
Bed-Stuy西部、Crown Heights
+1.2%
11222
Greenpoint
+1.0%
11224
Coney Island
+6.0%

Crown Heightsにも大型な高級コンドミニアムが建設されましたし、Bed-Stuyも十数年前から随分変わったと言われます。「ブルックリンは新しいマンハッタン」("Brooklyn is the new Manhattan") のセリフのように、ブルックリンではマンハッタン化が進んでいると言える部分もある一方で、ブルックリンのユニークさが好まれる部分も間違いなくあります。ブルックリンは新しいブルックリンになりつつあるのではないでしょうか。だから「住みたいのはマンハッタンだけど、ブルックリンに近いところが好き」という人が多数存在する気がします。

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