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【 法人向け 】 住宅手当の再設計 ~ 賃貸解約にかかる違約金

日本企業・政府機関がニューヨークに派遣する職員に支給する住宅手当は、多くの場合でニューヨークの住宅事情に適した設計になっていません。再検討をお勧めするのは、途中解約にかかる違約金の扱い、次に仲介手数料への手当です。

途中解約条件設定の現状

ニューヨークシティーの賃貸物件の契約期間は、原則1年か2年です。契約期間半ばで退去するには、管理会社に解約に応じてもらうか、不動産会社を使うなどして契約を引き継いでくれる人を見つける必要があります。

解約できる場合、殆どの物件で家賃2か月分から3か月分の違約金が、また少数の物件では1か月分の違約金が発生します。違約金が不要な物件はごく僅かです。また、条件を約束されず、翌年の契約更新時に検討とされることもあります。

ニューヨーカーの多くは違約金を払って解約するのではなく、契約を引き継いでくれる人を見つけます。その方が安く済む見込みがあるためです。日本のお客様の多くは手間や不確実性を嫌って解約を好まれます。

途中解約のための方法と根拠
  • 契約の1年目に解約が認められるケースはありません。2年目に解約が許される物件でも、その条件を契約別紙(Rider / ライダー)に盛り込んでもらえる場合と、そうでなく現在適用されている解約条件を口頭やEメールで説明されるに止まる場合があります。どちらの場合でも、違約金が発生することが大多数です。
  • 違約金が免除されたり減額してもらえる場合も、仲介料を家主が負担しなくなる等、交換条件を提示される場合があります。
  • 契約時に解約条件を明らかにせず、契約更新時に管理会社のマネジメントオフィス(つまり貸出業務を担当するオフィスと異なる)が相談に応じるとするところもあります。この場合も、違約金が発生する可能性が高いです。
  • 解約を認めない物件も存在します。

解約条件を契約別紙に入れてもらえる場合でも、契約をそれからもう1回以上更新した後に帰任することになった場合、更新後のその契約に同じ条件を盛り込んでもらえる保証はありません。(つまり、そこまで先の契約を縛る文言は通常入れてもらえません。)したがって、解約条件を契約別紙に入れてもらえず口約束になる物件をお借りになっても、1年以上先に関しては法的な違いがありません。

2019年6月に改正された賃貸に関する法律によれば、解約の際、家主は次の借り手を探す義務を課せられました。しかし、家主の責任範囲を定量化することは困難ですし、少なくとも退去する日までに次の入居者が決まらないのであれば、金額の大小は別として、家主が違約金を請求する根拠になると考えられます。(コラム 《 ニューヨーク州 賃貸に関する法律の大幅改正:全賃貸物件への影響も 》をご参照)

これらが意味するのは、雇用主は、途中解約において違約金が発生することを前提にした住宅手当を設計するのが妥当、ということです。

違約金を請求されることの合理性

僅かにせよ、違約金が不要または家賃1か月分とする物件があるなら、2か月分・3か月分もの違約金は非合理なのでしょうか? そうではありません。むしろ次のような経済的合理性があります。

  • 賃貸住宅の殆どが1年サイクルの契約を前提として家賃を決めています。途中解約を許すと、家主は次の入居者が現れるまでの機会損失を負うだけでなく、清掃費用や、次のテナントを募集するための広告費用、契約までの事務費用等が、予定より早く発生します。
  • ニューヨークの賃貸住宅市場は秋から春先までが長い閑散期で、賃貸住宅の申し込み者が大きく減少します。その期間に解約されると、繁忙期の解約に比べ、次の入居者が決まるまで長い時間がかかります。しかも閑散期なので市場に合わせて家賃を下げざるを得ず、契約によりそれが1年間続きます。

つまり、1年単位の契約を前提とした家賃は、その条件の下で賃貸物件同士が競争した結果であり、早期解約により生じるコストは解約者に転嫁されています。仮に違約金なしでの解約を許容する物件が増えると、ニューヨークの家賃は今より高くなっているはずです。

違約金を誰が負担すべきか

異動を命じる雇用者が違約金を負担するべきです。もしニューヨークで違約金なしに解約できる物件が一般的であったなら、家賃がそれだけ高くなっていると考えられるのですから、その状況下で雇用主が家賃を負担するのと金銭的に大差ありません。

雇用主が違約金を負担しないために起こっている弊害

少ない違約金で解約できる賃貸物件は、比較的家賃が高めの一部の大手賃貸会社のものに限られます。そこから、住宅手当の範囲に収まる家賃であること、通勤への便も良いこと、時に室内洗濯機も条件とされると、選択肢が極めて少なくなります。その結果、非常に多くの日本人の赴任者が特定の大型賃貸物件、それもニューヨーカーには人気がないエリアの物件にお住まいになっています。また、それらは立地が良いものだけではありません。例えばイーストハーレムの96丁目から98丁目付近や、アッパーイーストのイーストハーレム寄り(カーネギーヒルの一部を含む)、そしてミッドタウンウェストのハドソン川近くに日本人駐在員が多くお住まいです。

そういった物件を避けるために、やむを得ず、高い違約金が自己負担となるご希望エリアの物件を、学校区等も勘案してお選びになるお客様が僅かにいらっしゃいます。しかし、それは手当が全般的に厚い企業の方でないと難しい選択です。

住宅手当をニューヨークの不動産事情に合わせて再設計すると

賃貸契約の途中解約において、違約金が発生するのが普通であることや、赴任から数年先の解約条件を事前に合意することも容易ではないことから、違約金は雇用主が負担するべきです。その際、負担する違約金を家賃2か月分までに制限しても、住宅の選択肢を多数確保できます。

その一方で、仲介手数料への手当については、家主が仲介料を負担する物件の場合は支給せず、そうでない場合に実費(原則家賃1か月分です)を支給するのが妥当です。現在、米系不動産会社なら手数料無料で仲介できる賃貸住宅についても、日本企業は年間家賃の 12-15% もの仲介料を日系不動産会社にお支払いです。不動産会社は、家主から仲介料を受け取る場合、借り手にその事実を開示する法的義務がありますが、日系不動産会社はそれを行っていないのです。(その関係で、日系他社は法律で定められたこの Disclosure Form をお客様に提示すらしていません。)

以上の再設計により、日系不動産会社にお支払いの高い仲介手数料を、駐在員の方々の住宅の選択肢を広げるために使うことができます。家賃が今より若干低い高品質物件(例えば、違約金が2か月分必要だが、同じエリアの違約金が1か月分必要な物件より家賃が安い物件)も選択肢になれば、月々の住宅手当の削減に繋がることが考えられますので、企業にも直接的なメリットがあります。また、駐在員の方は、より安全なエリアや、ご希望の学校区にある物件を選びやすくなります。ニューヨーカーが選ばないエリアには、それなりの理由があります。

ある日本の大企業では、異動時期が年に1度の特定の時期と決まっているため、解約条項を気にする必要がなく、1年毎に契約を更新されます。

他社の営業トークの問題点

ある月刊の企業向け新聞の2019年9月号で、Relo Redac Inc の社長が、違約金について次のような主張をしています。(この会社の新サービスを宣伝するための発言であることにご留意下さい。)

「 賃貸契約を結ぶ時点で社内規定に準じた契約内容になっているか精査していない場合、赴任者が急に帰任しなければならなくなった際に、本来払わなくても良いはずの違約金を請求され、言われるがままに支払ってしまったというのは良くある話です。専門的な知見とノウハウがあれば防げることなのですが、知らないが故にこのような無駄なコストが発生してしまうことがあります。」

解約時に契約を引き継ぐテナントが見つからない限り、「本来払わなくてよいはずの違約金」というものは普通ありません。何故なら、テナントが家主に通知するだけで途中解約を許す文言を入れた契約はニューヨークで殆ど使われておらず、解約を許す場合は違約金や通知期限を別紙で定めるからです。別紙に解約の定めを盛り込まなかった場合は、契約通りに家賃を支払い続けるか代わりの入居者を見つけてくることが原則ですから、違約金を「払わなくてよい」ことを意味しません。

違約金なしに解約できると別紙に定めることは不可能ではありませんが、雇用主が例外を認めるように強く賃貸契約に介入しない限り実現しないでしょうし、従って「賃貸契約を結ぶ時点で社内規定に準じた契約内容になっているか精査していない」ような会社では起こり得ません。「良くある話」でもないはずです。無料で解約できるごく僅かな物件でも、それは次のテナントが見つかるならという状況次第なのが普通です。賃貸専用物件でなく個人所有のコンドミニアムであれば、特に日本人の家主に解約条件を甘く設定してもらうことが可能かもしれませんが、何十年も昔と違って、今は駐在員への賃貸に適した品質のコンドミニアムを持つ日本人投資家が減りました。

この数か月の間に、リダック社を含む日系不動産会社複数が、2年契約の途中で退去されたお客様の契約の引き継ぎ手を募集しているケースを複数見かけました。それらの場合、次の借り手が入居するまで、退去された方が家賃を払い続けています。この社長が述べたような、日本企業・政府の派遣職員に好都合な契約は難しいということを、逆説的に自ら示しています。(それはともかく、企業派遣の方が解約できない物件を2年契約するとは、一体どういうことなのでしょうか?)


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