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ニューヨーク州 賃貸に関する法律の大幅改正:全賃貸物件への影響も

ニューヨーク州の賃貸に関する法律を大幅に刷新する "Housing Stability and Tenant Protection Act of 2019" が 2019年6月14日に州知事により承認され、一部を除いて即日実施、2019年7月14日に全面施行されました。その大部分は "Rent-stabilized" (レント・ステイビライズド)アパートメントと呼ばれる、家賃がNY州の規制下にある賃貸住宅に関する内容ですが、以下のように、全ての賃貸契約を対象とした大きな改正があります。

2021年6月14日更新

1. 敷金や前払いは、合計家賃1か月分までに制限


最大のインパクトがこの改正です。どの物件でも通常、敷金(Security Deposit)の差し出しを求められますが、それが家賃1か月分までに制限され、それ以上の敷金の支払いも、家賃の前払いも禁止されました(注:前払いとは、契約時に2か月目以降の家賃を支払うことを指します。初めの月の家賃は契約時に必要です)。賃貸物件の申込者が自発的に家賃1か月分を超えた支払いを行って承認を得ようとすることも認められません。

これまでは、米国での年収が審査の基準(家賃月額の36-45倍が大半)に満たない方や学生の方は、敷金を多く支払ったり年間家賃を前払いすることで入居できる物件が多数存在しました。法改正によりそれが不可能になりました。年収や信用調査(クレジットスコア)の要件が緩い高品質賃貸物件は存在しますが、かなり少数です。また、家賃が低い物件なら審査が甘くなるわけではありません。この法改正は、借り手一般の保護を主目的としながら、お申込者によっては非常に不利になりました。

家主にとっては、収入が十分にない方に貸し出すリスクを補う手段が保証以外になくなりますので、申込基準を満たす借り手が減少します。

2. 敷金は退去後14日以内に返還される


従来、敷金の返還には退去から1-2か月かかることが普通でしたが、14日以内に返還するよう定められました。また、貸主は、修繕費を差し引いて敷金を返還する場合、その明細の提示が義務付けられました。

3. 申込み料を20ドルに制限


賃貸専用住宅の申込み手数料が大人一人あたり $20 までに制限されました。以前は $75 から $100 程度が普通でした。$20は、信用情報(いわゆるクレジットヒストリー)の取得やバックグラウンドチェックの費用として認められた費用です。

例外として、コンドミニアムやコープをお借りになる場合の、管理組合に支払う諸手数料(申込み手数料、Processing Fee、Move-in Feeなど)は制限を受けません。また、法律のこの条文は貸主や貸主側エージェントのみを対象としていますので、借主と代理人契約を結んだ不動産エージェントには適用されません。

申込料に関するこの条文が曖昧だったため、当初は業界での対応がまちまちでしたが、9月中旬に New York State Department of State がガイダンスを出し、法律の解釈が上記のように確定しました。

この結果、賃貸物件探しの競争が一層熾烈になりました。お申し込み後、敷金を払うまで他の申込者の受付を続ける賃貸ビルも増えました。申し込み費用が $20では、物件を見て良い候補と思えばとりあえず申し込み、それから別の物件を見に行ったり、同時に複数に申し込むことが容易になったためです。インターネットの不動産情報サイトに掲載されている空室情報はただでさえ更新が追い付いていませんが、人気物件ではますます追い付かなくなると予想されます。

4. 中途解約後、家主に次の入居者を探す努力を義務付け


従来ニューヨーク州では、入居者が賃貸契約を中途解約する場合、あるいは解約しようとする場合に、家主に次の入居者を積極的に探す法的義務はありませんでした。このため、解約できない賃貸ビルにおいては、入居者自身(または入居者から委託された不動産会社)が契約の引き継ぎ手を見つけない限り、家賃を払い続ける決まりでした。解約に応じてもらえる場合も、家主は家賃の2-3か月分の違約金を要求することが普通です(少数ですが 1か月分の賃貸会社もあります)。

改正された法律の解釈としては、家主は中途解約する入居者を容易に訴えたり残りの家賃を支払わせることができず、実際に生じた空室期間の家賃や、次の入居者を見つけるのに値下げをしなければならなかった場合の差額に留まる、というものがあります。珍しい例では、ある賃貸会社が「法律が改正されたこともあり、契約には記載しないものの、次の入居者が早く見つかれば違約金を課さない」と話していました。

しかし、解約は賃貸契約と関係する事項ですし、ニューヨークにおいて賃貸契約書本文にデフォルトで解約条件が記してあることは少数です。その上、家主の責任範囲を定量化することは困難であることから、違約金を不要とする賃貸物件は、改正から1年以上経った2020年9月現在も、殆ど現れていません。

違約金に関する詳しい解説は、コラム 《 住宅手当の再設計 ~ 賃貸中途解約時の違約金 》をご一読下さい。

改正された法律が対象とする物件

以上の改正は、賃貸専用物件、コンドミニアム、コープ、タウンハウスなどの全てが対象です。例外は、高齢者向けケア施設等、特別な目的で建てられた施設のみです。法案中、それが明記された部分を《 抜粋 》しましたのでご覧下さい。(ポップアップ表示します)

上記の改正が「レントスタビライズにのみ適用される」と書いた情報が U.S. FrontLine などに掲載されていますが、それは誤りです。


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