2021年7月 マンハッタン賃貸市場は前例のない椅子取りゲーム:殺到する申込み、家賃の急騰
マンハッタンの人気エリアにおいて、家賃がパンデミック前を遥かに超える水準に値上げされています。2021年春から賃貸需要の回復に追随した値上げがずっと続いていましたが、7月の値上げ幅は異様です。例えば、トライベッカ、ウェストビレッジ、ソーホー、ノーホー、チェルシー、フラットアイアンで、6月中旬と比較して 1 Bed(1 LDK)アパートの家賃が一気に $1,000 程度も値上がりし、$5,500 から $6,000 越えで借り手を募集する高級物件が続出しました。
ミッドタウン東西ではそこまで値上がりしていませんが、従来から比較的人気が強くリノベーションの程度も高い賃貸ビルでは、2019年夏を超える家賃で入居者を募集しています。
私たちがこの現象を認識したのとほぼ同じ時期に、Brick Underground が不動産ブローカー複数に取材し、「賃貸需要が前例のない高さにある」こと、「賃貸住宅の申込みに、まるで住宅購入のような入札競争さえ起きている」ことを報じました。
昨日のツイートと同じことが記事になっていました。Tribeca, Soho, Greenwich Village, West Village, Brooklynなどで、賃貸住宅なのに売買のような"bidding war"が起きています。賃貸の申込みが殺到して借りられない人も多く、家賃は競争を反映して急上昇中です。https://t.co/fOq7CQAssg
— 暮らし. ニューヨーク (@NYCRE4J) 2021年7月1日
7月中旬になると家賃の上昇だけでは済まなくなり、空室自体が激減しました。出遅れた人たちによる熾烈なアパート契約競争が起き、予算がある人でも希望を満たす物件が見つからない事態になったのです。ニューヨークの賃貸価格は需要と供給に従って変化してきましたが、そのダイナミズムが予想外の水準に達しています。
何がこのような需要増と家賃高騰を引き起こしたのでしょう。パンデミックからの回復期に折り重なった複数の要因を紐解いて、今の状況までを解説します。
この後に出たデータに基づく総合的な解説はこちら 《 2021年7月 マンハッタン賃貸市場 データと解釈編 》
NYで一般向けワクチン接種が始まる前の 2021年3月までに起こったこと
- 3月頃まではまだ空室が多く、仲介料を家主が負担し、さらに家賃を下げたり 1年契約で家賃2-3か月分無料の特典がつく物件が多かったため、それを好機と捉えた多くの人がNY市内で引っ越した
- 1年以上も在宅勤務(WFH)の企業が多かったため、仕事場所と生活空間それぞれの確保のために、広い住宅に引っ越す人が増えた
- H、L、及び一部の J ビザ申請者の米国への入国制限が失効し、ビザ申請の受付が再開した
多くの大手賃貸物件では、この段階でもう事務処理能力が多量の申込みに追いついていませんでした。
2021年4月から6月に起こったこと
- 65歳未満の市民を対象としたCOVID-19ワクチンの接種開始、感染率の低下、経済・社会活動に対する制限の段階的撤廃が進み、4月からはパンデミック中にニューヨークシティの外に逃れていた人々が戻り始め、6月までには多数が戻ったと推察される
- 学校の春学期が終了したことで、新学年からの通学先を見据えた市内での引越し需要も高まった
- マンハッタンの新規賃貸契約数が4月に爆発的に増加(下のツイート)。この後のデータで、5月、6月の契約数は更に5%程度増加したことが判明
- マンハッタンとブルックリン、クイーンズを比較すると、5月半ばまでは、ブルックリン北西部とクイーンズのロングアイランドシティの方が家賃の回復が速い傾向が見られた。しかし 5月後半には「マンハッタンから逃れなくても問題ないのでは」「他州からNYに戻るにもマンハッタンが良いのでは」「マンハッタンの家賃がお得になっている」という考えが広がったのか、マンハッタンの賃貸需要が相対的に高まり、家賃の速い上昇が続いた。ブルックリンとクイーンズの家賃は停滞に転じた
- 週の何日かをオフィスでの勤務とする企業が増えた。夏以降のオフィスでの勤務再開をにらんだ引越し需要も高まった
- 人気のある賃貸ビルでは家賃が以前の状態にかなり戻った
解説します。この表はマンハッタンの賃貸契約数の前年同月比を示します。昨年4月はCOVID19のためが激減しました(約4,800 -> 1,400)が、今年4月は9,000件を超え、比が激増しました。
— 暮らし. ニューヨーク (@NYCRE4J) 2021年5月19日
過去数年、初夏に来るピークでも6-7千でしたので、9千は異例です。1-2月も既に過去のピークに匹敵していました。 https://t.co/vMwb2017Vo
これに呼応して、地下鉄やバスの乗客が増え始めました。また、複数の巨大IT企業が、同年秋までにオフィスでの勤務を再開するというニュースが流れました。
人気が高い賃貸住宅においては、新規入居者が集中するあまり、家具搬入用のエレベーターの予約に空きがなくなり、希望者の一部は入居日を最大3週間程度も後ろ倒しにしなければならない例が現れました。
2021年7月以降に特に顕著になったこと
- 小・中・高等学校の新学期前の引越し需要が最終段階を迎えた。NYを脱していた家庭のマンハッタンへの回帰も加わり、2ベッド以上の広い住宅の需要が逼迫し、空室が希少になった
- オリエンテーションやプリセメスターが8月から始まる大学院生(配偶者同伴や子ども連れの方も含まれる)がNYに来るようになった
- 非移民ビザ(F:学生, J:交流訪問者, I:報道関係者)保持者の滞在期間等の変更に制限を設ける提案を米政府が7月6日付で撤回
- 海外から赴任する駐在員が増加した

ニューヨークの 7-8月頃はもともと賃貸住宅への需要が高く、一年中で最も家賃が高くなる時期ですが、上記の多数の要因が次々に加わったことにより、例年より早い時期に賃貸需要が高まりました。そして、現在は次のようなことが起こっています。
- 良いエリアにあり、高品質で、広い住宅の多くが、賃貸需要が高まる前の家賃が安いうちから6月までの間に借りられてしまっており、7月以降は毎月出てくる少数の空室の取り合いになっているため、空室が大きく不足(「椅子取りゲーム」)。実際、当チームが定期更新しているお勧め賃貸住宅空室リストでも、空室がない賃貸ビルが大幅に増えた
- 空室が出てもその日に多数の内覧者が現れ、その日に借り手が決まる例が出ている
- 需給の大きな不均衡のせいで、空室があっても家賃が一昨年を大きく超える例がある
- 賃貸住宅の申込みは通常であれば先着順で受け付けられるものだが、希望者による入札に変わり、高い家賃を提示した借り手が契約できる例が現れた
- 余りの空室のなさに、賃貸会社の一部は、入居可能日が1か月以上先のユニットを積極的に広告するようになった
空室と家賃の動向がどう変わるか、確かな予測はできませんが、例年、9月に入ると賃貸競争が和らぎ、新規契約の家賃が下がり始め、10月には家賃無料月などの特典も増え始めます。
賃貸住宅を7-8月の間にお探しのお客様は、何かの条件を妥協し、見つかる空室の中から素早く決める必要性が強まっています。賃貸契約の時期をずらすことも一つの案として考えられます。もし公立学校選びが関係しない方であれば、3か月を目安に家具付きのサービスアパートを使えば、今より空室が増えて家賃が下がったところで住宅を探せる可能性があります。高品質なサービスアパートメントの費用は夏は非常に高く、現在は Studio が $4,500 以上、1 Bed は$6,500 以上ですので、難しい判断です。費用が最重要ではなく、希望する長期契約の選択肢が出てくるまで待つことが最重要な人に向いた方法と言えそうです。
元来、6月から8月は、家賃の面から言って駐在員を派遣するには最も適さない時期です。学校のサイクルから言っても、3月に日本の学校を卒業する時がベストであり、3月後半の特にイースターの祝日を境にニューヨークシティの賃貸需要が大きく増え始めます。

2022年4月追記: 2021年前半までの、新規契約者向きの家賃が低かったうちに引越して、2年契約をしたニューヨーカーが相当数に上りました。このため、2022年はあまり空室が出てきません。もともと数があまり多くない 2-Bed 以上の間取りのアパートでその傾向が強く、2022年に家賃が特に上昇しています。
2022年4月24日 最終更新