2021年7月 マンハッタン賃貸市場 データと解釈編
前々回のコラムで、2021年7月のマンハッタンにおける空室の枯渇と家賃の急上昇ぶりを、観察と Brick Underground の記事に基づいてご説明しました。それを裏付けるデータが出されましたのでご紹介します。
新たな情報としては次のものがあり、これらを含めてデータの総合的解釈(ストーリー)を提示します。
- 5月から7月までの新規賃貸契約数も異例の多さ
- Studio(日本で言うワンルーム)の需要が相対的に弱い
- 高級・高品質物件の賃貸需要が他より相対的に強い
※ この記事で用いる全てのデータの出典は、ミラー・サミュエル社です。
5月以降も賃貸契約数の爆発的上昇が継続 例年より早くピーク到来
前回のコラムの中で、2021年4月の新規賃貸契約数が集計開始以来の全ての月を上回る 9,000超、前年同月比 6.5倍(+546%)に達したというブルームバーグの情報を引用しました。その後、5月、6月の契約数は、前年度比で各 4.3倍、3.0倍と勢いが弱まったものの、件数は過去最高を連続して更新し、6月に 9,642件のピークを記録してから 7月にようやく減少に転じました。7月の契約数はそれでも 2020年までのどの月より多いものでした。(注:横軸の最新は、2021年7月です。)

従来、マンハッタンの月別の新規賃貸契約数は7月に最多となることが多く、8月が二番目に多い月でした(下の図)。しかし 2021年は6月が最多であり、その次に多いのは5月と4月でしたから、例年より概ね 2か月早く繁忙期が到来したと言えます。2021年7月に物件をお探しだった方は、6月までほど価格面以外でも良い条件の物件を見つけることが困難で、少ない選択肢の中から決めざるを得ませんでした。

月間契約数に対する空室数の比率が例年並みに 空室は Studio と平凡な品質のアパートに偏り
下の図を見ると、募集中の空室 "Listing Inventory"(茶色の折れ線、縦軸は左) が直近では4-5月を境に急減しながらも、例年よりまだ多いように見えます。しかし、新規賃貸契約数 "New Leases"(青い折れ線)も多いため、空室は毎月の賃貸需要に対して多くありません。
需要に対する空室数を相対的に表した指標が、Months of Supply(水色の棒グラフ、縦軸は右)です。ある月の契約数が続いた場合にその時点の空室(在庫)が平均して何か月で貸せるかを示す、いわゆる在庫回転期間です。パンデミック前の水準にかなり近づいており、2021年6-7月は約1.2~1.5か月です。仮に、平均して約1か月分が毎月新しい空室として出てくるとすると、前月から繰り越した空室が 0.2~0.5か月分だけ残っているという考え方ができます。この端数は、空室 "Listing Inventory" を新規賃貸契約数 "New Leases" で割って1を引いたものと近似します。
数字の上では、この滞留した空室数は例年より少なくありません。しかし、当チームのお客様がお求めの空室は圧倒的に不足していました(2021年8月現在も同様)。また、Brick Underground で報道された米系大手不動産会社のエージェントの経験とも合致しません。その理由は、細分化された特定の条件では、供給(空室)が需要に対して全く追いついていないためです。その二つの分野を以下にご紹介します。

需要と供給が合致していない一つの分野は、1-Bed 以上のアパートです。今年は誰もが、経済的に可能であるなら広い住宅に住みたいと考えているからです。下の図は、2021年1月から7月までの各月に契約された物件の平均家賃を、前年同月からの増減で表したものです。
Studio では5月になってもマイナス13.0%と下落率が大きく、6月に一度前年同月比 3.4% に増加しましたが、7月は再度マイナス 3.0% に低下しました。これまで Studio に住んでいた人の中には 1-Bed に移りたい人が多かったため、Studio の賃貸需要が伸び悩みました。
1-Bed のユニットは 5月以前も Studio よりは落ち込みが小さく、7月には前年同月比で 1.2% 上昇しました。この傾向は、2-Bed, 3-Bed の住宅でより強く表れています。2-Bed 以上の賃貸住宅の数は 1-Bed よりずっと少ないため、まさに「椅子取りゲーム」となり、需要と供給の乖離が価格に敏感に反映されます。

需要と供給が合致していない二つ目の分野は、高級住宅です。下の図は、各部屋タイプにおいて家賃が上位 10%の高級住宅を "Luxury"(水色)と分類して、家賃の前年同月比増減率を表しています。好立地、高品質、広い、築浅の要素を兼ね備えていることがほとんどでしょう。パンデミック以降のどの月でも、Luxury の家賃はそれ以外のアパートより減少率が小さく、2021年3月、5月、7月に至っては大きく上昇しました。
これは私たちの経験や観察に近いものがあります。人気の高級住宅であるほど、申込み競争が激しく、家賃が大幅かつ急激に引き上げられました。また、上では Studio の家賃が平均的には伸び悩んでいることを説明しましたが、高級物件では Studio でも家賃が速く値上げされ、空室もなくなりました。1-Bed についても同じで、人気の賃貸ビルでは借り手が殺到し、家賃が1-2週間の間に10%程度も値上げされたり、申込み可能なユニットに次々と借り手がつきマーケットから消えました。

2021年8月15日 掲載