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家賃1か月分の違約金で中途解約可能な賃貸物件は24,300

賃貸契約を中途解約することの難しさがあまり知られていなかったため、以前のコラムでニューヨークでの中途解約の現状を詳しく解説しました。日本企業の方々が「中途解約は簡単」と信じた大きな要因に、日系不動産仲介会社複数(特にその最大手)が「違約金なしでの中途解約が普通」のように長年語ってきたことがあります。その宣伝は、日本の顧客企業にありがちな「(この場合は従業員がどれだけの期間駐在するかを)コミットせず様々な可能性を残しつつ、それでも費用は抑えたい」という思考様式と相性が良かったため、日系仲介会社間で非現実的な解約条件の無責任な宣伝競争が巻き起こりました。

➡ その仲介会社が、2022年秋に「中途解約は一般的でない」と説明を翻し、2023年夏には「ニューヨーク市内では1割にも満たないと言われています」とブログに書き、従来の解約の特約を宣伝したページを削除しました。詳細はこちら

その結果、多数の大手企業が金銭的に痛い目に遭い、何年もかけてニューヨークの実情を学習し、中途解約時の最低限の違約金を負担する例が出てきています。しかし、厳しさの認識が十分に理解されているとはまだ言えません。

もし「米系不動産仲介会社では中途解約可能な取扱物件數が日系より少ないのでは」とお考えでしたら誤解です。数え上げただけで 24,300 の物件(ユニット単位)で、家賃1か月分の違約金での中途解約が可能です。

2025年6月12日 最終更新

対象賃貸ビルは70、ユニット数は24,300

ニューヨークシティの主要賃貸会社の中に、家賃1か月分の違約金で中途解約を容認するものが数社あり、9社で約2万4千のユニットを有しています。(注: 解約条件はマーケットの状態によって変わることがあります。また、ある賃貸会社の所有物件の一部だけ条件が異なることがあります。) それらの賃貸会社と特約を結ぶ必要はなく、当チームは他社と同様にこの条件で仲介できます。

注1:  D社は、中途解約条項を結ばなかった住人に対して違約金を家賃1か月分とすることが多いものの、最近は契約時にとり決めようとすると「家賃2か月分」の違約金と言われることが多いため、表から除外しました。D社は2,834ユニットを有します。
注2:  表中には、違約金を不要とする賃貸ビルがごく数えるほど含まれます。

これらの賃貸会社の大半は、契約の2年目からのみ中途解約を認めますが、例外的に1年目から認める会社もあります。賃貸市場が貸しにくい状況にあるかどうかによっても変わります。例えば、パンデミックの真っ只中では、頼めば1年目での中途解約を容認してくれた物件がありました。

注意点として、賃貸契約期間外の期間についての解約条件は、契約に盛り込まれません。例えば、はじめて1年契約をした賃貸物件で 2年目の解約条件を文書にしてもらえるのは、契約の更新時です。はじめて2年契約をした場合、2年目の解約条件は契約に入れられますが、3年目の扱いは盛り込まれません。契約の性質上、これは仕方がないものです。それでも、大手賃貸会社では継続的に同じ条件を提示して賃貸客を集めているため、更新時に解約条項の盛り込みを拒否される可能性は小さいと言えます。

なお、契約更新時に解約条項を付けてもらう依頼を借主が行わず、雇用主に確認もせず手続きをしてしまうと、解約条項がないままとなり問題になりますが、当チームにご依頼頂ければその点をお忘れないようお知らせします。

現在も続く、虚偽または限りなくグレーな宣伝文句

上に集計した中途解約可能な物件は、どのブローカーが仲介しても同じ条件で契約できます。違いが生じるとすれば、各ブローカーが物件オーナー毎・建物毎の中途解約解約ポリシーをどれだけ知っているか、また、賃貸会社が条件を受入てくれそうな市場状況の場合にプッシュして可能性を探っているかどうかのみです。

「中途解約特約物件 1万〇千件」

日系仲介会社による「特約を結んだ物件が1万数千件」という宣伝にすぐ違和感を抱きました。「特約」がなくても、当チームはそれを上回る数の物件を同条件で仲介できるからです。この事実をご存じなければ、その仲介会社だけが多数の賃貸会社と特約を結べているかのように読めますが、そうではないことは上記の集計で分かります。

個別の賃貸会社との体験を踏まえても、虚偽が含まれると分かります。ある全米展開するディベロッパーが賃貸業務を行う賃貸ビルで、マネージャーが「この建物では中途解約を認めていない」と言うので、その某日系不動産会社の名前を知っているか訊ねると、知りませんでした。つまり、日系不動産会社はその大手の物件と交渉できておらず、駐在員にご紹介していないのです。同マネージャーによると、その不動産会社を使わない、企業派遣ではない日本人が時々借りることがあるとのことでした。ミッドタウンイーストの高品質な内装の物件ですから、道理でお客様の目につかない訳がありません。

ある賃貸会社一つでは、その日系不動産会社の専用書式で解約条項が契約に添付されていましたが、内容は「違約金が家賃1か月分、1年目の中途解約は不可、2年契約した場合の2年目だけ中途解約可」と、特例と呼べない普通の条件でした。

「3年目にも自動的に中途解約できる特約」

これも不可解な宣伝です。その日系不動産会社が仲介した賃貸契約を確認すると、契約を更新した場合のその先の年(2年契約した場合は、3年目以降を指す)に関する解約条項は存在しないからです。個別の賃貸契約に盛り込まれていない事項は、その「特約」が別に存在したとしても意味がありません。社内弁護士が賃貸契約書をレビューする日本企業の例もありながら、何故、その「特約」を個別の賃貸契約に入れないのでしょう。ニューヨークでは物件の所有者が変わることがよく起こりますが、そうなると契約書にないことを新しい所有者に対して主張することはできません。

「特約」が法的に意味がないことは、賃貸契約が貸主と借主の間だけに有効なものであり、仲介会社は当事者ではないことからも自明です。仲介サービスを提供するだけの不動産仲介会社が、何故あたかも契約の当事者のように「特約がある」と言えるのでしょうか。少しでも考えれば、そのような特約に法的効力がないと分かります。仮に「特約」が存在してもそれが有効であるためには、(1)貸主と借主がサインしている、(2)賃貸契約の一部になっている、の二つが満たされている必要があるからです。

それどころか、先のコラムの後半で実例を挙げた通り、その日系不動産会社が多数の駐在員を斡旋している賃貸物件において、契約更新時に中途解約条項を入れてもらうのを忘れて解約できず、日系不動産会社がマーケットで契約を引き継いでくれる人を探す例(=リースアサインメント)が過去に見受けられました。もし「特約」が有効だったならば、中途解約条項を更新時の契約に入れ忘れても解約できたはずです。

結論を述べると、「3年目にも自動的に中途解約できる特約」という宣伝文句の通りの法的効果はありません。

「違約金なしで解約できる」

ニューヨークで違約金なしに中途解約できる物件は、元々かなり例外的です。しかも、そういった物件でもその条件は契約には盛り込めず、解約後の物件を賃貸会社がすぐに貸せたなら違約金不要とするだけだったりするため、上の集計に含めていません。この状況は、どの仲介業者が仲介しても同じです。

問題の日系不動産仲介会社が仲介した大手賃貸会社との契約を見ても、違約金が必要という内容になっていました。無料で解約できると謳うものは、主にその会社の管理物件でしょう。具体的には、日本人投資家が所有する物件で、解約条件と引き換えに家賃を高く設定しているかもしれません。マンハッタンの新しめの高級コンドミニアムを購入できる投資家は少数ですので、管理物件の多くは、ロングアイランド(ナッソー・カウンティなど)やウェストチェスター・カウンティにあります。(以前の日本の税制下で節税効果が高かった古い不動産を探すと、尚更そうなります。)しかも、日本の税制変更を受けて、2020年頃から日本人投資家は続々とニューヨーク不動産を売却しました。

他に考えられるケースは、仲介料を賃貸会社が負担する物件において、その日系不動産会社が「仲介料は顧客に請求するので、賃貸会社からの仲介料支払いのオファーは、中途解約の違約金を無しにすることと振り替えてほしい」と依頼した場合です。仲介料をご勤務先がお支払いになるなら、当チームにも同じ交渉が出来ます。

関心を持つべきは、見かけの解約可能件数でなく、ニューヨークで主流の条件に合わせること

24,300の物件のうち、日本企業や政府から派遣される方のご予算やご期待に合うものが、ご希望の時期にどれだけ空室として出るかご存じですか。それほど多くありません。ある時点では、300ユニット以上を擁する建物一つに1または2ユニットしか空室がないことがざらにあります。空室がないこともあります。また、2ベッドルーム以上の広いユニットになると、多くの役職の方のご予算を上回る物件が大多数です。

そう考えると、24,300でも十分ではありません。その他を探せば、違約金が家賃の2か月分または3か月分、時に4か月分の物件や、解約不可の物件となります。一般的に言って、家賃がお手頃な物件や中小賃貸会社の物件ほど、解約条件が厳しい傾向があります。

日本企業や政府機関は、駐在員の異動時期についての柔軟性を確保したいなら、最少でも家賃2か月分の違約金を容認することが必要です。それをせずに物件の選択肢をある程度確保したいなら、駐在員それぞれの任期を予め決めるか、駐在年数を決めなくても異動を一年の同じ時期に行うことが必要です。


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