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NY不動産市場

不動産が売れるまでの期間と値引き率の関係

ニューヨークの不動産は売買の回転が比較的速く、需要が高い物件では1か月未満などの短期間で買い手が付きます。逆に、数か月も買い手がつかない物件の割合は少ないので、広告に表示される売り出し日数 "Days on Market" が長いと、悪い意味で目立ちます。

特に、日本在住の不動産投資家が日系不動産会社に売却を委託したニューヨークの物件のなかに、何か月も、場合によって半年や9か月以上も売れていないものを目にします。そのような事態になるのは何故かと、潜在的買い手に与える心理的悪影響を考察します。

注: Days on Market の定義は、売り出しから契約完了までの日数です。ある一般向け不動産情報サイトでは、売主が買主のオファーを受け入れるまでしか日数を数えませんが、それは一般的ではありません。

2023年2月23日公開

データ:売り出し期間が長い物件ほど、大きく値下げしないと売れない

下の図は、ニューヨーク市の住宅が売れるまでに要した期間別に、売り出し当初の価格からどれだけ値下げされて売買が完了したかを表したものです。売却に多くの日数を要した物件ほど、値下げ率が大きいことが分かります。(図の出典: Brick Underground / UrbanDigs "What ‘days on market’ really tells you about pricing, discounts, and negotiability"

2021年第2四半期から2022年第2四半期にかけては住宅バブルで圧倒的な売り手市場でしたので、今参考になるのは、2022年第4四半期と、パンデミック前の2019年です。売却に60-89日を要した物件では平均して5-6%の値下げ、121日以上では12%前後の値下げが起こりました。

Days on market

2004年以降の集計も示します。この期間には、2008年の金融危機を誘発した住宅バブルと、金融危機後の長いQE(金融の量的緩和)が含まれるため、現在より値下げ率がやや小さいものの、傾向は同じです。他に分かることとして、売却された物件の56%は3か月以内に契約が完了しました。

Days on market

値付けが間違っている

時間が経つほど大きく値下げしないと売れない。その理由は、「売れない期間が長い物件ほど、始めの値付けの間違いが大きい」ことに尽きます。

売れない物件は同価格帯の類似の物件と比べ、メンテナンスの程度、使い勝手、立地など、何かが劣っています。それにも関わらず売主がそれを自覚していないか、分かっていながら野心的過ぎるのです。

時間が経っても売れない物件の大多数は、売るためには値下げする必要があります。

日本人投資家の事情と心理(1) 高値で掴み、高望みで売り出す

適正価格まで値下げすることを阻む心理的動機が一部の日本人投資家にあります。

  • 投資家がニューヨークの不動産を購入した際、日系不動産会社が間に入っており、投資家の購入価格はその不動産会社のマージンが上乗せされた割高な転売価格だった。それが売主の内心での基準になっている
  • 不動産を購入した主な目的が本邦での減価償却による節税だったので、適正価格を上回っていても節税額が増えるので気にせずすんなりと購入した。しかも自分は住まない投資物件なので、使い勝手・間取りの良し悪し・立地など、本当の価値に注意を払わなかった。しかし売るとなると購入価格を基準にしている

日本人投資家の事情と心理(2) 減価償却を優先して売り時を逃がす

周囲と比較して適正と想定していた希望売却価格も、時々の不動産全体の需要によって適正かどうかが変わります。2022年始めまでの前例のない資産価格バブルが終った今では、全体の需要に応じた価格調整が必要です。しかし、一部の投資家は海外不動産の償却メリットにこだわった結果、市場の悪化をよそに売却を早める判断が遅れ、悪い時期に値下げが不十分なまま売り出しています。

  • 2016-2017年に、日本の税制下で6年償却となるコンドミニアムをニューヨークで購入し、2022年春以降に売りに出した投資家が複数 (下の例は6年ちょうどの保有)。その中には、2023年現在も買い手がついていないのに売り出しから価格が一度も調整されていないものが散見される
    ちょうど6年の償却期間を経て売りに出された、日本人投資家のコンドミニアム
  • 上と同じ建物内で2022年冬に80日で売却が完了したユニットの取引価格は、4年前の購入価格から11%低かった。つまり、割高で購入された他のユニットでもそれくらいの値下げが必要だと想定できる

金利が上がった2022年は、魅力が小さい住宅を売りに出すには悪い時期でしたが、そうなることはFRBの方針から前年までに分かっていました。金利が歴史的な低さにあった2021年は売り手市場であり、長期保有への関心がない投資家には絶好の売り時でした。2022年頃に不動産を売る予定だった人は予定を早める選択肢がありましたが、その時期を逃しても売りたければ値下げは仕方ありません。

「売れ残り物件」への更なる値下げ圧力

売り出されてからの日数 "Days on Market" の表示が長くなるほど、「なぜ売れないのか」と人は疑問を持ちます。割高であろうことは言うまでもなく、「何かとても悪い点があるから買い手がつかないのでは」「自分が気付かなくても他の人が気付いた欠点がありそう」と想像します。ますます敬遠され、さらに値下げされないと売れにくくなる悪循環が生まれます。

また、少しずつ何度も値下げを繰り返すのも、その物件に引き合いがなく後手に回って値下げしている印象を与え、敬遠される要因になります。

売り出し前に現状を良く分析し、始めから適正価格まで下げて売り出した方が、そうしないよりも良い価格で早く売れる可能性があります。

不動産会社は売却価格を適宜助言すべきで、それがないのは利益相反の背景も

売れ残っている物件の売主には、売却を担当している不動産会社から、価格や売却時期について積極的なアドバイスがあってしかるべきです。売り出し時には野心的な売主の意向を優先したかもしれませんが、それが3か月以上も売れないと不利益が明らかですので、弊社なら同じ建物内の他のユニットや周囲の物件と再比較し、価格の見直しを提案します。しかし値付けが変わらない日本人家主の売り物件は多く目につきます。

(賃貸でもこの点は同じで、日系不動産会社が借り手を募集する投資家所有物件には、数か月も同じ建物の似た別ユニットより高い値段のまま広告を出した例があります。ニューヨークでそのような広告は稀です。)

投資家が売却を委託した日系不動産会社が、購入時に使った会社と同じであるなら、その不動産会社は「売値が高すぎます」と正直なアドバイスをしづらいことも要因でしょう。「その物件は過去に弊社が厚い利益を乗せてお客様に転売したものです」と、過去の誤りを認めざるを得ないからです。不動産会社から軌道修正のアドバイスを受けておらず、いわば「放置」されている売主は、別の会社の起用を検討するべきでしょう。

ニューヨークの住宅購入時に日系不動産会社を使った投資家でも、売却時には米系不動産会社を起用する例が時々見受けられます。

例外

他に類を見ない特徴を持った希少な物件は例外で、すぐに売れないからと言って値下げが正しい訳ではありません。その価格と特徴にぴったり当てはまる物件への需要が元々少ないだけで、価値を認めてくれる買い手が存在する可能性があります。

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