「審査簡単」アパートのデメリット
NYCで「審査簡単」、時に「光熱費込み」を宣伝したアパートとは、個人家主が所有する物件(一戸建て、タウンハウス、そして一部の管理が緩いコープやコンドミニアム)です。一見魅力的かもしれませんが、会社が管理する賃貸専用物件や、管理組合がきちんとしたコンドミニアムと比べると、管理が不十分、審査が主観的、クレジットヒストリーができない等、いくつものデメリットがあります。
2021年3月3日更新
そういった物件を広告する不動産会社は、個人家主に貸し出し業務を委託され、その家主のために働いています。家主との関係を良好に維持することが重要なため、品質が悪くても他に選択肢があっても、それらの物件になるべく空室を作らないよう、お客様に積極的に勧める傾向があります。一例では、ある不動産会社から、半地下のアパートを含む質の低い個人所有物件ばかりをいくつも案内され、途中で見かけた賃貸専用物件を見せてくれるよう依頼して初めて、渋々のようにそちらに案内された話を聞きます。一度きりの取引になる借主より、家主の方が大切だからです。
「審査簡単」物件のデメリットは次の通りです。
品質(内装、設備の状態、清掃の程度)が期待に届かない
管理会社が入っている賃貸専用住宅、またはドアマンや管理組合がしっかり機能しているコンドミニアム(日本で言う「分譲マンション」)に比べ、「審査簡単」な個人所有物件の状態にはばらつきがあるうえ、多くは低価格帯の住宅です。「綺麗」「清潔」を重視される日本人のお客様が期待される水準には届かないことが多いようです。それどころか、家主が Certificate of Occupancy を取得していない、つまりニューヨーク市が居住を認めていない部屋だった(地下室に適当にガス・水道管をつけて改造したものや、半地下のみの部屋もこれに該当)という話を聞きますし、掲示板にて天井に水道管が走る半地下の「アパート」を広告しているケースもあります。
家賃が安いのには必ず理由があります。その点をご理解なく「安い」「簡単に申し込める」「掘り出し物だ」と飛びつく方がいますが、本当の「掘り出し物」は、マーケットに出されずに貸し出されていたり、無数の借り手のうちの誰かが先に申し込んでいるものです。
私たちがきちんと管理された賃貸専用物件にお客様をお連れすると、「これまで案内されたアパートの中で一番綺麗」というコメントを頂くことがあり、逆に私たちが「他社はお客様をどんなところにご案内したのだろう?」と驚きます。
住人の質(安全性)が担保されない
良く管理されたコンドミニアムやコープでは、個人家主がサブリースする時にも、テナントを審査し、バックグラウンドチェックを行います。一定の収入または保証人が求められ、それ相応の社会的地位を有していることになります。
しかし、個人家主が、例えば「日本人なら誰でも歓迎」という態度で募集をし(注:お申込者を人種で選別することは違法です)、それが審査なしに許される建物では、どんな人が住人なのか全く予測できません。極端な話では、日本人の住人が盗みを働いていた話を聞きました。また、深夜のパーティーの騒音などで他の住民に迷惑をかける可能性もあります。審査が甘い以上、アメリカ人の住人にも日本人の住人にもあり得る問題です。また、審査が甘いせいで短期滞在者が多いと、出入りする人が住人なのか、そうでないかが、分からなくなります。
審査に一貫性や公平さがない(承認基準、審査日数、理不尽な決定)
- 例1: 申込みを受取った担当者は「過去の例から言って、問題なく承認されるだろう」と言っていたが、家主に数日間決定を先延ばしにされた挙句、申込みを断られた。その理由は教えてくれなかった。
- 例2: 申込みが簡単に承認され、引越しの準備をしていたが、引越し前日になって家主が承認を取り消したので、次のアパートを大急ぎで探す羽目になった。
大手賃貸会社のように専門の組織がお申込みを審査しませんので、審査基準に一貫性がなく、予見可能性が低いという問題があります。例えば、同じ学生という身分、同じ支払い条件、海外から初めて移住して来られる方が複数いらっしゃるとして、家主は普段そういった人たちの入居を承認しているのに、ある人だけが何の説明もなく承認されないという場合です。加えて、お申込みを差別なく審査しているかを知る術がありません。家主の「好み」による非合理的な選別を防ぐ仕組みがないのです。
審査に要する日数もまちまちです。家主が休暇をとっていたり海外に滞在中のせいで、家主への連絡が取りにくく審査が進まないことがあります。
設備の修理が遅い可能性
米国の設備に関しては、日本でご経験されるより高い頻度で故障やトラブルに遭遇します。食器洗浄機、洗濯機・乾燥機、ガーベッジディスポーザルといった機器の故障や水漏れ、また建物の設備ではエレベーターやボイラーの故障に遭遇される方も多いです。個人家主の物件には築浅のものが滅多にないため、特に問題が起こりがちです。迅速に修理業者を手配し、修理完了まで見届けてくれるかどうかは、家主次第です。家主が昼間に別の仕事をしていれば、直ぐに連絡が取れないこともあります。
クレジットヒストリーができない
アメリカで生活を始める方にとって、クレジットヒストリーを積み上げることは大切な問題で、いずれ通常の賃貸物件にお引越しされる際や、その後のあらゆる生活の便のために、良いクレジットヒストリーが欠かせません。そのための第一歩が、家賃、電気、TV・インターネット、携帯電話料金の支払い実績を積み上げることです。
しかし、「審査簡単」物件には「ユーティリティー費用込み」のものがたくさんあります。借り手の名義で電気やケーブルを契約しませんので、クレジットヒストリーが出来ません。また、家賃の支払いを現金で求められるケースもあり(これは家主が税金の捕捉から逃れたいためです)、そうなると借り手が家賃を支払った記録が残りません。
このような状況では米国で次の生活に移るステップがなかなか作れず、その後の様々な局面で不利になります。
割高
「ユーティリティー費用込み」の家賃は、ユーティリティー費用を多めに見積もっているので、割高です。お一人でお住まいになるなら特に、ユーティリティー費用が含まれている意味が見出せません。

以上のようなデメリットがありますので、私たちは「審査簡単」な個人家主物件を取り扱っていません。コンドミニアムやコープの賃貸は仲介します。殆どのコンドミニアムやコープの場合は、管理組合や管理会社が審査を行いますので、それほど「審査簡単」ではありません。