セミナーを賑わす危険な海外中古投資物件 買って後悔しないために
「米国で不動産投資を検討しているが、X社が勧める中古物件を買ってよいものかどうか、迷っている」とのご相談を受けました。他州での不動産売買であるため、弊社は仲介することが出来ないものの、取引の基本はさほど変わらないことから、まずはどのような物件かお話を伺いました。
1980年築の一戸建 3ベッド 2,230 ft²
- X社が 約 $300,000 で購入
- X社が $42,000 をかけて改装
- X社が $2,175 でこれを賃貸
- $392,000 で日本人投資家に売り出し。想定利回り 3.8%
平たく言えば、これは不動産会社による転売です。当チームの考えは次の通りです。
販売価格の妥当性について
売買取引が成立した時点で、仕入れ値 $300,000 + 改装費用 $42,000 に上乗せされた $50,000(= $392,000 - $300,000 - $42,000)が X社の利益となります。販売価格について、X社営業担当は「今後、毎年 3% 程度の値上がりが見込めるので、すぐに利益が出るはず」と説明していますが、過大に見積もり過ぎです。これだけ築年数が経った物件の価格が上昇し続けるか疑問です。
また、古い物件をリノベート(日本でいうリフォーム)してきれいにしても、必ずしもその分価値が上がる訳ではありません。なぜなら、周辺の同等の広さの物件が最近いくらで売れたのかでマーケット価格が形成されるからです。それには、物件以外の要素が非常に大きく関わってきます。街が古くなると、周辺環境や住民層も変化していきます。また、この物件がある地域の学校は、悪くはないものの、最良ではありません。購入場所の選択を誤ると、リノベーションの効果が十分現れない可能性もあり、この物件のエリアも例外ではありません。
リノベーション費用も高過ぎます。現地の水準では、床を全部張り替えても半額以下で済んだでしょう。完成後のリビング、キッチン、バスルームの写真を見ても、それほど費用がかかるようなリノベーション内容に見えませんでした。そもそも、ご自分が住むわけではない 30万ドルの投資物件を、4万ドルもかけてリノベートすること自体が誤っています。
購入後にかかる費用について
購入後にかかる主な費用として、固定資産税以外に、物件管理費や住宅ローンの金利があります。X社の管理費用は家賃の 13% と、地元管理会社による 8-10% より高く設定されています。また、X社は子会社を通じて購入価格の 70% まで住宅ローンを出しますので、投資家は頭金 30% を準備すれば購入が可能です。投資家は、家賃収入がある時でもない時でも、 物件を手放すまでずっと、X社に管理費用と金利を払い続けることになります。つまり、X社は不動産マネジメント業務のみでなく、物件を担保に金利を稼ぐ金融サービスを提供している訳です。
■ 結論
「割高なので購入は見送るべき」とお伝えしました。
従来より X社は、富裕層向けに加速度減価償却(4年)を利用した節税目的の取引を大々的にマーケティングして来ましたが、日本の税制が変わり、2021年から加速度償却が出来なくなりました。そうは言っても、余剰資金を米国不動産、つまりドル資産で運用されたい日本人投資家は一定数いらっしゃいます。
しかしながら、X社のような業者にすべての業務を丸投げすることは勧められません。彼らが販売するのは、日本人投資家向けの高額なパッケージ商品です。上の例のように、不透明な費用や日本人向けプレミアムマージンが上乗せされた特定の物件を、言い値で買わされることになります。不動産会社から直接物件を買うこと自体が大きな誤りで、そのせいで客観的な価値の判断をしてくれる人がおらず、さらに価格交渉力もないのです。
他州・海外の投資家は、不動産投資会社が自己所有する(つまり、転売目的で一旦取得した)割高な物件を購入することはありません。現地不動産仲介会社に物件探しを依頼し、現地の売主から購入し、購入後は不動産マネジメント会社に物件管理を任せます。売買取引仲介と物件管理業務のそれぞれの専門家とやりとりする訳です。中には両方のサービスを提供する会社もあります。
数千万円、数億円の商品をご自身の目で確かめずに、つまり現地で内覧せずに購入することは危険です。不良債権を掴んでしまうリスクがあります。例え物件自体は悪くなくても、高値で購入することは、最初から損失を確定しているようなものです。
価値のある物件を見つけ、適正価格以下で購入し、優良なテナントや管理業者を探せば、キャピタルゲイン・インカムゲインが見込めます。アメリカ不動産投資にご興味のある方、現地を良く知る不動産仲介会社にご相談されてみてはいかがでしょうか。
➡ 他の例も含め、より包括的に解説した完全版はこちら 《 投資物件の購入に米国不動産会社を起用する意義 》
2020年9月3日掲載