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コープ(Co-op)購入の利点とハードル

マンハッタンとその周辺で購入できる集合住宅には、主にコンドミニアムとコープがあります。前者は日本でいう分譲マンションです。後者はアメリカの一部の地域にのみ見られる所有形態で、購入条件が厳しく購入後の制約も多いのですが、一般的にコンドミニアムより価格が低いため、ご購入者次第で良い購入対象となります。比較的短い年数で売却する可能性を残す場合や、貸出が主目的の場合には不向きです。購入から売却までの重要ポイントを幾つか解説します。

2019年11月 初稿掲載、2024年12月12日 最終更新

「コープの購入は経験豊富な不動産エージェントがいれば難しくない」という宣伝を見かけますが、不動産エージェントの経験や能力以前に、購入対象としてコープが不向きなお客様がいらっしゃいます。その判断のためには正しくコープをご理解頂かなくてはなりません。

コープとは何か

コープ(Cooperative; co-op) は、集合住宅の建物全体を所有する会社組織です。コープのユニットを「買う」というのは、実は、コープの株式をそのユニットに応じた数だけ購入することで実現しており、法的には、株主でコープ全体を共同所有しています。ニューヨークシティの住宅の7割から8割をコープが占めます。

株主から選ばれた管理組合があり、そのボードメンバーがコープの経営(つまり全面的な意思決定を伴う管理)を執り行います。決算を作成したり納税を行い、その結果で管理費が決まります。

なお、コープと言っても様々で、超高級住宅街のコープから、人気の地区で高い水準に良くメンテナンスされたコープ、そして安さでしか目につかないようなコープもあります。ここでご説明するのは、比較的高級でしっかりとメンテナンスされたコープです。安いものは購入・維持・売却の条件が緩く、注意を要するケースが出てきます。

コンドミニアムより低価格

物件それぞれではありますが、購入・維持・売却の条件が後段で説明するように厳しい代わりに、またコンドミニアムほど豪華なアメニティ(ルーフトップ、プール、フィットネスセンター、ラウンジなど)を備えていないことが普通であるため、同程度の品質のコンドミニアムと比べて価格が2割ほど低いことが多いです。条件を満たせる方であればお得なお買い物になります。賃貸住宅やコンドミニアムより人の入れ替わりが少ない環境が手に入ります。

価格が低めであることは床面積当たりの価格についても同じで、同じ価格であれば広さに有利なコープを選択するという考え方もあります。2024年のマンハッタンにおけるスクエアフット当たりの平均価格は、コンドミニアムが $2,046 だったのに対して、コープは $1,183 でした。

加えて、コープには Title Insurance や、ニューヨーク特有の Mortgage Tax がかかりませんので、住宅ローンをお使いの方には特にクロージング費用が少なくて済みます。

購入後の経費もコンドミニアムより低い

管理費(メンテナンスフィーとも呼ばれ、コープの場合は固定資産税が含まれる)は年により上下することがありますが、平均的には同程度のコンドミニアムより安いことが多いです。特に、固定資産部分についてはコープを対象とした税制優遇の恩恵があります。しかし例外は存在するため、十分な事前調査が必要です。

購入時のハードル

コープ住宅を(コープの株主としてですが)購入されたい方を、管理組合が選別します。その意図は、将来の隣人になって欲しい人を選ぶということで、掘り下げると次の観点に集約されます。

  • コープを共同所有する隣人としてふさわしい品性・人柄を備えているか
  • コープに納める管理費(メンテナンスフィー)を継続して支払う能力があるか
  • 長期間居住してコミュニティーの安定要素になってもらえるか

これらの実現のため、次のようなハードルをクリアする必要があります。

  • 推薦状が必要(典型的には Personal Reference Letter 3通、加えて Professional Reference Letter 数通の場合も。コンドミニアムでも推薦状を要することがありますが、コープの方が必要数が多い傾向)
  • 管理組合のボードメンバーによる面接が必要(コープにより違いあり)
  • 資産や収入要件がコンドミニアムより高い(ギリギリの資金でのご購入は勧められず、管理費に対する収入の余裕も求められます)
  • 頭金(ダウンペイメント)に必要な割合がコンドミニアムより高く、購入価格の 20-25% 以上、50% や 75% の場合も

このように要件が厳しいため、売主側のエージェントにとっても、購入希望者がコープの審査に通りそうかは大きな関心事です。内見時にはいろいろと話しかけてきて、服装や態度も含めて人物を見定め、ご職業や勤務先について詳しく尋ねてきたりもします。ご購入希望者は、この非公式な関門を突破しなくてはなりません。

コープの決算を分析する必要

金融や会計に明るい人物がボードメンバーになり、コープの経営が適正に行われている場合(更には、ボードが経営を外部に委託せず、ボードの有能な人物により税金が増えないよう上手に経営されている場合)もありますが、適切に運営されていない例を聞くこともあります。コープの財務が健全か、株主から集める管理費が不足していないか、必要性が小さい経費またはお客様の価値基準にそぐわない経費がかかっていないか、将来持続可能な財務状況にあるか、ガバナンスが適正か等を吟味しなくてはなりません。

当チームは大手金融機関等で様々な企業の財務・リスク分析を10年以上行った経験がありますので、この点でお客様の力になります。

貸出し(サブリース)時のハードル

一般的に、コープは主たる住居としてのみ購入可能ですが、例外的に別荘もしくは投資用の購入を認めるコープもあります。ただ、投資用としての購入を認める場合も、コープは貸出しを抑制したり優良な借り手を求めているので、厳しいルールがあります。始めから賃貸収入を目的とした購入には向きません。

  • 購入から数年経ってからでないと貸出せない場合がほとんど (このようなルールがないコープは管理が適当である傾向があります)
  • 一定の年数内に貸出せる期間が制限されていることがある (例えば、期間5年ごとに2年まで貸出可 )
  • 貸出している間、コープに支払う管理費が割り増しされる
  • 借り手の入居審査にも推薦状や面接が必要になるうえ、審査に時間がかかる (月一回しか集まらないボードもあり)

最後の点は借り手にとってもハードルになるため、貸し出すためには、家賃が同品質の賃貸専用物件より低めに設定されることが多いです。

貸出し(サブリース)時の利点

借り手が入居までに管理組合に支払う初期費用は、コンドミニアムと比べると安いことが多いです。入居までの時間に余裕がある借り手にとっては、コンドミニアムよりコープの方が経済的かもしれません。

売却時のハードル

売却時にはコープ特有の手数料がかかるうえ、ご自分が購入時に経験されたように、適格な購入希望者を見つけなければなりません。

  • Flip Tax (Transfer Fee)

    名称に反してこれは税金ではなく、コープが売主から徴収する譲渡手数料です (買主から徴収することもあり)。 コープは住民の簡単な入れ替わりを抑制し、かつ安定した経営を求めているため、このような手数料を科します。

  • 購入時の審査に耐えられる、特に頭金をコープの規定以上に支払える売却相手を見つけなければならない

    早く買い手を見つけるために、市場に出ている同程度の物件より売却希望額を低くしなくてはならないことがあります。但し、ご購入時の価格も他より低いのでこの点が悪いわけではありません。

  • 購入後の一定年数は貸し出せない規則のコープが殆どで、その場合、賃貸中の状態では売却できない。つまり、サブリース契約の終了を待つ必要がある

以上の理由から、比較的容易に購入・賃貸が出来るコンドミニアムを好む方が多くなります。しかしコンドミニアムの供給数がコープほど多くないため、価格がコープより高めになります。

コープ住宅の購入に適した方

既にニューヨークにお住まいの方がご自分の住居をお探しの場合、コンドミニアムより割安で安定したコープをご購入になる意義があります。

古くからの高級住宅地には、住民の入れ替わりや賃貸に出されるユニットが少ない、コミュニティ意識の強いコープが多数存在します。コープ全体の資産価値を守り、運営コストを削減するべく、管理組合がしっかり経営しています。豪華なアメニティはほとんどなく、加えてコープは税制面で有利なため、毎月の管理費が低めなことが多いです。

住民層が安定しているため、景気が低迷する時期でも物件価値が他より下がりにくいという長所もあります。

当チームは、管理がしっかりしたコープの売買や賃貸の経験があり、実際のお取引においては、上記以外にもアドバイスを差し上げるポイントがあります。ご紹介できる不動産専門の弁護士の中にも、コープのボード及びCFOを務めて実務に精通した人物がいます。コープのご購入にメリットがある方には、スムーズにご購入手続きが運ぶようサポートします。

2024年 住宅価格の上昇後に高まった人気

特に初めて住宅を購入する人々の間で、コンドミニアムと比較して価格や広さに優れるコープ住宅の人気が高まりました。マンハッタンにおける $500,000 から $1,000,000 の価格のコープの売買数は、2024年9月に前年同月から43%増。10月も55%増と続きました。パンデミック後の家賃の値上がりを受けて、これまで賃貸住宅に住んでいた人が住宅をいち早く購入したいと考えた場合に、コープは有力な候補になっています。

従来、コープの管理組合は審査基準を一切緩めないものだと一般的に認識されてきましたが、最近は一部の管理組合が、申込み者の債務対年収比率の要件を緩和したり、親類が頭金の一部を負担することを認めるなど、審査を通りやすくする例が見られます。但しそういった措置は、金利が高く、購入希望者が十分増えていない状況下での特例と言えます。

「コンドップ」に注意

少数ですが、コンドップ(Condop)と呼ばれる建物があります。それらはコンドミニアムとして扱われる商業スペースと、コープとして扱われる住宅からなります。商業スペースは、小売店、レストラン、オフィス、ドクターズオフィス、大学の学生寮など様々です。住宅部分は上でご説明したコープと同じです。コンドップの数はニューヨーク市全体で300に満たず、コープの建物数の 4% 相当です。

コンドップは「コンドミニアムルールのコープなので貸しやすい」と説明した宣伝を見ることがありますが、ルールが緩いコンドップは例外的です。私たちは不動産専門の米人弁護士の複数からも、「貸しやすいという考えは誤り」「コンドップの住宅部分はただのコープに過ぎない」との説明を受けています。ルールが緩いコンドップは、コンドップだからそうなのではなく、単に、僅かに存在するルールが甘いコープ(コンドップではないもの)と同類だと理解するのが正しいです。

コンドップの形態がとられる理由は幾つかあります。一つは、コープは商業テナントからの賃料収入が建物全体の20%を超えると低税率の恩恵を受けられなくなるため、商業ユニットをコンドに変え、住宅部分のコープから分離するというものです。二つには、借地(但しニューヨーク市が所有する一部借地を除く)には法律の制約でコンドミニアムを建てられないので、コンドップまたはコープとなっている建物があります。

コンドップの住宅を購入する時、コンドミニアムの部分(商業スペース)が何に利用されているかだけでなく、コンドミニアム部分の管理組合がどれだけの議決権を有しているかと、それとコープ部分の管理組合との間に潜在的な利害の対立がないかに注意する必要があります。例えば建物の修繕にあたって、どの部分の費用を負担したくないかの考えが異なるでしょう。また、コープの住人は全体をきちんとメンテナンスして住宅価値を維持したい一方で、商業スペース(例えば学生寮)の管理組合はメンテナンスを抑えたいと考えがちでしょう。建設からある程度の年数が経っているコンドップなら、議事録や決算書などから運営状況についての手掛かりを得ることができます。