お子様連れにも最適なNYC / 郊外にはない利点
もう6年以上前のことですが、「子連れでNYに赴任するならニューヨークシティでなくウェストチェスターの一択」とお思いの方々に立て続けに出会ったことがあります。ロケーション選びの考えは人それぞれですので、ウェストチェスターをお好みの方の考えは理解します。しかし「一択」とまで強くお思いだったので理由を訊ねると、ウェストチェスターだけの利点としては当てはまらないものでした。以前ウェストチェスターにお住まいだった同じ会社の方々から代々引き継いだ古い体験談にかなり影響されていらっしゃるようでした。近年では、プライマリースクール、ミドルスクールのお子様がいらっしゃるご家庭でも、マンハッタンやその周辺にお住まいの方が増えています。
一部の方がウェストチェスター (といっても地域により様々ですが) を勧める理由は、(1) 学校の評価 (2) 日本人の小児科専門医がニューヨークシティにいないから、というものでしたが、(1) はもともとウェストチェスターが優位ということはなかったと思われますし、(2) は現在では正しくありません。お子様を現地校でなく、日本語教育を行う全日制学校に通わせるなら、郊外が選択肢になります。
マンハッタン、ブルックリン、クイーンズには、高い評価を得ている公立学校がいくつもあります。下は、最も評価が高い公立学校を示した地図です。これに加え、高級住宅地として再開発され人口が増えている地区では、Primary School からはじまって Middle School / Junior High School へと、評価が上昇する学校が増えると考えられます。(クイーンズやブルックリンにおいてそのような状況が観察されます。)
米国人には、こういった高い評価を受ける学校へのお子様の入学を目的に、早めに転居する方が多くいますし、日本人でも徐々に増えているようです。

一方で、ウェストチェスターにはクラスのかなりの割合が日本人生徒になっている学校も存在し、それについての良し悪しの見方は人により分かれるところでしょう。
➡ ご参考: ニューヨークシティの公立学校選び: 心構え・大原則・正しい情報源
似た関心事として、現地校に通う子女を対象にした週末の日本語補習教育があります。1975年に発足した「ニューヨーク補習授業校」は、マンハッタンおよびクイーンズのフラッシング及びレゴパークにあった拠点を1980年代後半に廃止し、ニューヨーク市の端から市外の三拠点 (クイーンズ北東端のベイサイド、ウェストチェスター、後に運営主体が独立したニュージャージー) に集約しました。その後、マンハッタンでは育英学園 (West 100th St) とリセケネディ日本人学校 (East 43rd St) が、ブルックリンでは2011年からブルックリン日本語学園 (Cobble HillのPS261内) が日本語補習教育を担ってきました。
2021年に、新しい選択肢が加わりました。Z会・栄光ラーニングセンターがグランドセントラル駅近くに "Alto"(アルト) を設立。当初は小学部のみでしたが現在は中学部まで拡充されています。ただし教科は国語、数学(算数)、プロジェクトに限られます。また、リセケネディ日本人学校に高等部が誕生しました。
現在ではマンハッタンに複数の日本人小児科専門医がいます。ニューヨーク日本国総領事館ウェブサイトの「日本語の通じる医療機関」に未掲載の方々もいます。
アメリカ人医師にかかる場合でも、ご希望により無料で医療通訳を付けてもらえる制度があります。
ウェストチェスター郡などの郊外の生活環境は、シティと根本的に違い、日本の一般的都市圏にお住まいの方には恐らく想像できないものです。ライフスタイルも別物です。
郊外では、お店は駅周辺の小さな商店街か、ショッピングモールにしかありません。徒歩圏にはたいてい住宅しかなく、スーパーマーケットに行くにもレストランに行くにも自家用車かバスを使うことになります。朝夕以外には、近所を歩いて誰かとすれ違うこともあまりありません。
鉄道やバスは1時間に2本などしか来ないため、結構待つことになりがちですし、待たないようにするためには計画的に行動することになります。
ニューヨークシティに住むメリットの一つは、徒歩や地下鉄で行ける距離にカジュアルな飲食店が多数・多種類あり、さっと食べたり持ち帰りに使いやすいことです。またチェーン店はたくさんありますが、それ以外に高い品質の食べ物を出すお店がここかしこにあることです。日本の都市部でも当然のことですが、広いアメリカでは、ほとんどの場所がそうではありません。
ニューヨークシティでの生活には、他にも多くの魅力があります。
日常の出費・時間・労力に直結する事項
- 通勤時間が短く、徒歩での通勤や買い物も可能になる
- 車を購入する必要がない (郊外で夫婦でお住いの場合、車を2台持たなければ外出が不便ですし、インフレ後は自動車保険料が特に上がりました)
- 光熱費が安い (シティの殆どの集合住宅ではセントラルヒーティングとお湯が無料で供給されます。郊外の一戸建てでは暖房や給湯で月に数百ドルかかることも)
- 悪天候でも滅多に停電が起こらない (倒木が少ない上、電線が地上に少ないことも理由です)
- お湯は全館に供給されるので、室内に個別の給湯設備が不要な場合が殆ど (一戸建てやタウンハウスで、ある種の給湯タンクの底が抜けて室内が洪水のようになる事象が知られています)
- 定期的な芝刈り、庭のメンテナンス、落ち葉の掃除が不要 (業者に委託するとそれなりの出費になります)
- 雪かきが不要 (降雪時、郊外では集合住宅を除き、出勤前に雪かきが必要です。シティでは建物の管理者が周囲を除雪したり融雪剤を散布します)
- デイケア施設、学校、スーパーマーケットがたいてい徒歩圏内にある
- 空港からのアクセスが良い
上記以外のシティの付加価値
- 集合住宅は防犯の面で格段に安心 (一戸建てでご夫婦のお一人が不在になると心配です)
- 美術館、博物館、コンサートホール、劇場、図書館、映画館などの文化施設に気軽に出かけられる
- WeWork のようなレンタルオフィスが多数存在する
- レストランが多い
- 多様な人的ネットワークを構築しやすい
ご駐在の方がお好みになる地域については長い間に変遷があり、1980年代中頃から始まったウェストチェスターへの集中も、そこにオフィスを置いた日本企業の方々を除いては、歴史の1ページになるように感じています。日本人駐在員は、ウェストチェスターに増える前は、クイーンズのフラッシングやフォレストヒルズ周辺に多く住んでいましました。上記「ニューヨーク補習授業校」がフラッシングやレゴパークにあった時期です。日本人駐在員がこぞってウェストチェスターに住むようになった大きなきっかけは、1980年代にフラッシングを拠点とする中国系ギャングの凶悪犯罪が横行したからでした。そのギャングは1990年代、ジュリアーニ市長の時代に壊滅させられました。
➡ フォレストヒルズの紹介記事で駐在員の住宅選びの変遷を解説: 「NYCエリア紹介 フォレストヒルズ」(記事の冒頭と末尾を参照)
日本企業の中には強い上下関係のなかで口伝えで特定の地域を勧めるところがあるようですが、ウェストチェスターを強く勧める先輩社員の助言に反してでもニューヨークシティをお選びになる方がいらっしゃいます。そういった殆どの先輩や知人からの「勧め」は、ウェストチェスターだけを経験した方々の前例に過ぎません。ご自身のライフスタイルと価値観に合わせて、そして現在のニューヨークシティの状況を分析して、お住まいをご検討下さい。

ウェストチェスターの賃貸専用住宅をご希望でしたら仲介を承ります。郊外の賃貸専用住宅は限られた場所にしかありませんが、大手の会社が所有する新しめの高級アパートメントで、メンテナンスフリーで快適にお過ごし頂けます。
2025年7月12日 最終更新